カテゴリー「スウェーディッシュ・バグパイプ(セックピーパ)」の記事

2011年8月21日 (日)

セックピーパ ~ シンプルな構造が生み出すハーモニーの極致(バグパイプ博覧会レクチャーコンサートの要旨その2)

 前回に引き続き、バグパイプ博覧会のレクチャーコンサート要旨、今回はセックピーパです(かなり補足してます)。お恥ずかしい話、私自身もセックピーパとの付き合いはまだ浅く、今年の初めに製作を開始してからですから、まだ半年少々です。私自身スウェーデン音楽については、これからもっと勉強しなければならないと考えていることもあり、今回のレクチャーコンサートではこの楽器の構造的特徴をメインに話をさせて頂きました。

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 さて、セックピーパについては以前から知っておりましたし、実物を手にとって見たこともあるのですが、見るからに地味な楽器(・・・)ということもあって、正直申し上げるとこれまであまり興味を持っていませんでした。ところが今年の初め、大阪のパイパー・HさんとセックピーパについてFacebookでお話しさせて頂く機会があり、ちょうどその頃ツイッターでも北欧音楽関係の方数名が私をフォローして下さったこともあって、「では作ってみようか」という気になったわけです(これらの方々には、この素敵な楽器に取り組むきっかけを作って頂いたことに、大変感謝しております)。さらに、これまた非常によいタイミングで、ドイツでセックピーパの教則本がオンライン無償公開されたことも、製作へのよい動機となりました(この教則本は、後に私の拙訳で日本語版を公開させて頂いたものです→こちら)。幸いセックピーパの基本構造は、従来私が作っていたボックやドゥダイなどのシングルリード系バグパイプと似ているので、上記教則本の著者であるミットメッサー氏に大まかな構造を教えて頂いた後、自分なりの設計を加えて完成させるまで、それほどの時間はかかりませんでした。

 上述の通り、セックピーパは一見すると大変地味な楽器です。こじんまりとしたサイズでドローンは一本だけ、音は小さく「ワビ・サビ」系、ボックのように「ぬいぐるみ」的な視覚効果もありません。しかし、実際に作って吹いてみると、この小さなバグパイプは実に魅力的、ある意味ではバグパイプ音楽本来の魅力を極めてよく表現しうる楽器、ということがわかりました。

 試作品を完成させた後、教則本を見ながら自分で練習したのですが、運指はハイランドやイリアンパイプスと似た「ハーフクローズド」の一種なので、比較的スムーズに曲の練習に入ることが出来ました。そうしてなんとなく曲を演奏していた際、ところどころで実に「気持ちのいい」瞬間が訪れるのに気がつきました。これは、ドローンの音とチャンターの音がピタリと一致して美しいハーモニーを奏でる時なのですが、これ自体は基本的に(ドローンを備えた)全てのバグパイプで体験できることであり、何もセックピーパの専売特許ではありません。チャンターとドローンのハーモニーは、あらゆるバグパイプ音楽に共通する魅力ですから。しかしセックピーパの場合は、その美しさが極めて特徴的で、非常に甘美で清澄な印象を与えるのです。その際立った美しさはどこから来るのでしょうか。

 実はセックピーパのチャンターとドローンは、リードも含めて基本構造が同じなのです。もちろんチャンターには音孔が、ドローンにはスライドが(これは昔のセックピーパにはなかったという説もあり)ある点が違いますが、基本的にはどちらも同じ内径、長さも大体同じで、ドローンのE音はチャンター音域内のE(右手小指を上げた状態)と一致します。つまり、チャンターとドローンが、同一オクターブ内の音を同じ音色で奏でており、言ってみれば、まったく同じ声・声域を持つ一卵性双生児のデュオが見事にハモッているような状態を作っているわけです。

 意外なようですが、チャンターとドローンの基本構造が同じというバグパイプは極めて少なく、殆どのバグパイプではこれらが著しく異なっており、したがって音色・音高も違うことが多いものです。もちろん、そうした構造面の違いは、ドローンとチャンターのハーモニーに別の効果を与えるので(例えば、ハイランドパイプスのバスドローンのように、ずっしりとした安定感を与える、など)、これはどちらが良い悪いの話ではなく、各バグパイプの個性として捉えて下さい。

 セックピーパの場合は、同じような管を袋に差し込んでチャンターとドローンにした、という一見シンプルな構造が、実は極めて美しいハーモニーを生み出す源となっているのです。特に、チャンターの音がドローン音Eと一致する(又はオクターブとなる)場合や、五度・四度の和音を作る時の美しさは格別です。もちろん、事前にしっかりチューニングをして、演奏中も圧力を微妙に調整しなければなりませんが。このハーモニーの美しさにすっかり魅せられてしまい、セックピーパはここ半年で一番よく練習したマイブーム楽器(といっても元々怠け者なのでたかが知れている)となりました。また、管楽器にして単独で和声を表現できるというバグパイプの特性とその音楽の美しさ、また表現の可能性について再認識するきっかけにもなりました。

 今回日本を訪問した際に、北欧音楽関係の方ともお知り合いになりましたし、これをきっかけに北欧音楽におけるバグパイプについても学んでいきたいと思います。

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2011/08/21/6757

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2011年7月 4日 (月)

スウェーディッシュ・バグパイプの教則本「修正版」

 お気づきの方もおられるかと思いますが、先日公開したスウェーディッシュ・バグパイプ教則本にいくつかのタイプミス(助詞が抜けている等)がありましたので、修正したものをアップいたしました(実質的な内容に変更はありません)。以下URLからダウンロード頂けます。

http://www.bagpipesonoda.eu/Saeckpipa-Lehrbuch-JPN.pdf

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2011年6月 8日 (水)

スウェーディッシュ・バグパイプ教則本日本語版が出来ました。PDFによる無料公開です!

 バグパイプ教則本翻訳プロジェクト第四弾、スウェーディッシュ・バグパイプ(セックピーパ)の教則本の日本語版が出来ました。しかも今回は、著者ビョルン・ミットメッサー氏のご厚意により、PDF形式にて無料公開いたします。ミットメッサーさん太っ腹! (ダウンロードはこちらのページからお願いします。ページの下のほうです。)

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 著者のミットメッサー氏はドイツ屈指のスウェーディッシュバグパイプ奏者で、スウェーデンの奏者の方々とも親交があり、スウェーディッシュ・バグパイプの普及を願って本書ドイツ語原版もオンラインで無償公開しています。 私が探した限りでは、本場スウェーデンにも教則本という形で奏法を体系的に記した指導書は見当たらず(2011年2月時点)、このドイツ語原版はスウェーデンでも紹介されている貴重なものです。

 巻末には45曲の曲集もついておりますので、バグパイプ奏者はもとより、北欧音楽ファンの方にもお楽しみいただけるのではないかと思います。拙い演奏ではありますが、巻末曲集のうち二曲を、私の製作した楽器で演奏しております。

http://www.youtube.com/watch?v=ZebsgoyxwO8

  実はこの演奏で使っている楽器(下写真)は試作品で、運指のみでC/C#の切り替えが出来るような試みをしています。通常このC/C#の孔(左手中指の孔)は二重孔になっていて、使わない方の孔をゴムバンドなどで塞ぐため、短調と長調を切り替えるためには一旦演奏を中断し、ゴムバンドの位置をずらさなければなりません。運指だけで長短を切り替えられればすぐに転調ができて、音楽的にも楽しいですから、これをなんとかしたかったためです。とはいえ、運指だけで切り替えるようにするのはなかなか大変で、お気づきのようにビデオの演奏ではまだCは高め、C#は低めの音が出ています。音程面で改善の余地もあるし、初心者方には空気圧の調整が難しいでしょうから、当面はスタンダードな二重孔のバージョンも作りつつ、と考えています。

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2011/06/08/5094

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2011年4月 5日 (火)

スウェーディッシュ・バグパイプのリード材料を採取

今日のスウェーディッシュ・バグパイプのリードは、各種リード楽器に一般的に用いられるArundo Donaxという葦で作られることが多いようで、私が今回作ったスウェーディッシュ・バグパイプでも、それを使いました。このタイプの葦は、地中海沿岸やカリフォルニアなど温暖な地方の海岸沿いに生えています。日本では和歌山などにみられるそうです。私の大学時代の友人に和歌山出身の男がおりますが、彼は和歌山を「日本のカリフォルニア」と賛美しておりました・・・・。少なくとも葦の分布の観点からは当たっているでしょう。

しかしながら、かつてはスウェーデン地場産の葦をよく使っていたとのこと。もちろん現在でも地元の素材を使っている人はおられるようです。そこでちょっと調べてみたところ、スウェーデンに生えている葦は、上記のArundo Donaxとは別のPhragmites Australisという種類で、こちらは世界中いたるところに分布していることが分かりました。実は日本の葦/ヨシもこれと同じで、ブログで何回か取り上げた鵜殿のヨシもPhragmites Australisです。もちろん同じ種類の葦でも、産地や気候、生育環境によって差が生じるので、どれでもよいというわけにはいかないでしょうが、日本でもその辺の川原や湖でスウェーディッシュ・バグパイプのリードの材料が手に入るかも?という期待も膨みます。いずれにせよ、一度Phragmites Australisを採取して実験したくなりました。

私の住んでいるバイエルンは、アルプスに近いため冬が厳しく、むしろスウェーデン南部の沿岸地方よりは寒かったりするので、スウェーデンと気候条件に大差はなかろうと勝手に思い込み、まずは近所のものを採取して使ってみることにしました。ちなみに、ガイタ用の教則本には、葦の採取は冬に行うのがよい、と書いてありましたが、スウェーデンだと冬は湖が凍っていたりするので、採取は雪解け後に行うらしいですね。というわけで、先日の日曜日に近くの池で何本か刈り取ってきました。(この日は気温も上がってかなり暖かかったのですが、なんと池で泳いでいるおねえさんがいました。)

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水面のすぐ上の部分がいいということなので、そこを刈り取ってきました。確かに、穂先に近い部分は柔らかくて、指でつまむとすぐにクシャっとつぶれるのですが、水面近くの部分は肉厚で硬く、リード素材としてはなかなかよさそうに見えます。まだ青いものもあるので、しばらく乾燥させなければなりませんが、今から楽しみです。日本でも鵜殿のヨシを初め、色々採取して試したいと思っています。

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2011/04/05/3752

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2011年3月27日 (日)

スウェーディッシュ・バグパイプの試奏ビデオをアップしました。

前回の記事でお知らせしたスウェーディッシュ・バグパイプの演奏をYouTubeにアップしましたので、ご覧下さい。拙い演奏ではありますが、音の感じはお分かり頂けるかと思います。

http://www.youtube.com/watch?v=RJuk8R_TeYo (曲:Fiona's lullaby - A. Hildenbrand作曲)

http://www.youtube.com/watch?v=ZebsgoyxwO8 (曲:Langdans fran Sollerön - Trad / Sommervalsen - A. Möller作曲)

今回試験的に採用したC/C#の一孔方式は、まだ音程改善が必要なので、当面は従来の二孔方式を採用したチャンターを作りつつ、並行して改良に取り組もうと思っています。

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2011/03/27/3615

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2011年3月22日 (火)

スウェーディッシュ・バグパイプ始めました。ニッケルハルパとも合奏!

今年の初め頃、メル友の某パイパー氏からスウェーディッシュ・バグパイプ(Säckpipa)について教えて頂く機会がありました。ちょうどそれと前後して、北欧トラッド音楽のファンの方が何人かTwitterでフォローしてくださったこともあり、この楽器に対する興味がわいてました。幸いドイツにも詳しい人がいるので教えを乞うたところ、色々とサポートしてくださって、この度無事試作品を完成させることができました。

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(以下、調べたことの受け売りですが)

スウェーディッシュ・バグパイプは一旦完全に廃れてしまい、20世紀後半になって復元されました。楽器の構造としては、ストレートボアのチャンターにシングルリードという、ドゥダイ(Dudey)と似た構造になっています。音域はd''からe'''ですが、主音はAとされ、これがチャンターの真ん中に来ます。これらはいずれも東欧系バグパイプによく見られる特徴です。

音階は下半分が長調で上半分が短調のような独特なものです。最近の楽器は、チャンター正面の上から二番目の指孔がCとC#に対応する二重孔になっており、使わないほうの孔をゴムバンドでふさぐ方式が多いようです。ただし、それだと演奏中に長・短を切り替えることが出来ないので、試作品では一工夫加えて、ゴムバンドを使わずに運指で長調・短調の切り替えができるようにしました(したがって、上記写真では該当孔が一つだけです)。近いうちに、スタンダードな二重孔タイプのチャンターも作ろうと思っています。なお、チャンター裏側には、右手親指用の指孔もあります。

運指は普通のハーフクローズドなので、ハイランドやイリアンパイプスの経験がある人には演奏しやすいのではないかと思います。私もこの楽器の演奏経験は全くありませんでしたが、簡単な曲なら即日に演奏できました。もちろん極めようと思えば奥が深いのは言うまでもありませんが。

シングルリード特有のシブイ音色もさることながら、新しく触れる北欧伝統音楽の世界に魅せられてしまいまい、早速ニッケルハルパを演奏する友人のところに出向いてセッションさせてもらいました(まだ共通のレパートリーが無かったので一曲だけですが)。

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最後になりましたが、この素敵な楽器を作るきっかけを与えてくれたパイパーのHさん、それにTwitterでフォローしてくださっている北欧音楽ファンの方に感謝!です。

スウェーディッシュ・バグパイプについては、また色々とご報告したいと思います。

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