セックピーパ ~ シンプルな構造が生み出すハーモニーの極致(バグパイプ博覧会レクチャーコンサートの要旨その2)
前回に引き続き、バグパイプ博覧会のレクチャーコンサート要旨、今回はセックピーパです(かなり補足してます)。お恥ずかしい話、私自身もセックピーパとの付き合いはまだ浅く、今年の初めに製作を開始してからですから、まだ半年少々です。私自身スウェーデン音楽については、これからもっと勉強しなければならないと考えていることもあり、今回のレクチャーコンサートではこの楽器の構造的特徴をメインに話をさせて頂きました。
さて、セックピーパについては以前から知っておりましたし、実物を手にとって見たこともあるのですが、見るからに地味な楽器(・・・)ということもあって、正直申し上げるとこれまであまり興味を持っていませんでした。ところが今年の初め、大阪のパイパー・HさんとセックピーパについてFacebookでお話しさせて頂く機会があり、ちょうどその頃ツイッターでも北欧音楽関係の方数名が私をフォローして下さったこともあって、「では作ってみようか」という気になったわけです(これらの方々には、この素敵な楽器に取り組むきっかけを作って頂いたことに、大変感謝しております)。さらに、これまた非常によいタイミングで、ドイツでセックピーパの教則本がオンライン無償公開されたことも、製作へのよい動機となりました(この教則本は、後に私の拙訳で日本語版を公開させて頂いたものです→こちら)。幸いセックピーパの基本構造は、従来私が作っていたボックやドゥダイなどのシングルリード系バグパイプと似ているので、上記教則本の著者であるミットメッサー氏に大まかな構造を教えて頂いた後、自分なりの設計を加えて完成させるまで、それほどの時間はかかりませんでした。
上述の通り、セックピーパは一見すると大変地味な楽器です。こじんまりとしたサイズでドローンは一本だけ、音は小さく「ワビ・サビ」系、ボックのように「ぬいぐるみ」的な視覚効果もありません。しかし、実際に作って吹いてみると、この小さなバグパイプは実に魅力的、ある意味ではバグパイプ音楽本来の魅力を極めてよく表現しうる楽器、ということがわかりました。
試作品を完成させた後、教則本を見ながら自分で練習したのですが、運指はハイランドやイリアンパイプスと似た「ハーフクローズド」の一種なので、比較的スムーズに曲の練習に入ることが出来ました。そうしてなんとなく曲を演奏していた際、ところどころで実に「気持ちのいい」瞬間が訪れるのに気がつきました。これは、ドローンの音とチャンターの音がピタリと一致して美しいハーモニーを奏でる時なのですが、これ自体は基本的に(ドローンを備えた)全てのバグパイプで体験できることであり、何もセックピーパの専売特許ではありません。チャンターとドローンのハーモニーは、あらゆるバグパイプ音楽に共通する魅力ですから。しかしセックピーパの場合は、その美しさが極めて特徴的で、非常に甘美で清澄な印象を与えるのです。その際立った美しさはどこから来るのでしょうか。
実はセックピーパのチャンターとドローンは、リードも含めて基本構造が同じなのです。もちろんチャンターには音孔が、ドローンにはスライドが(これは昔のセックピーパにはなかったという説もあり)ある点が違いますが、基本的にはどちらも同じ内径、長さも大体同じで、ドローンのE音はチャンター音域内のE(右手小指を上げた状態)と一致します。つまり、チャンターとドローンが、同一オクターブ内の音を同じ音色で奏でており、言ってみれば、まったく同じ声・声域を持つ一卵性双生児のデュオが見事にハモッているような状態を作っているわけです。
意外なようですが、チャンターとドローンの基本構造が同じというバグパイプは極めて少なく、殆どのバグパイプではこれらが著しく異なっており、したがって音色・音高も違うことが多いものです。もちろん、そうした構造面の違いは、ドローンとチャンターのハーモニーに別の効果を与えるので(例えば、ハイランドパイプスのバスドローンのように、ずっしりとした安定感を与える、など)、これはどちらが良い悪いの話ではなく、各バグパイプの個性として捉えて下さい。
セックピーパの場合は、同じような管を袋に差し込んでチャンターとドローンにした、という一見シンプルな構造が、実は極めて美しいハーモニーを生み出す源となっているのです。特に、チャンターの音がドローン音Eと一致する(又はオクターブとなる)場合や、五度・四度の和音を作る時の美しさは格別です。もちろん、事前にしっかりチューニングをして、演奏中も圧力を微妙に調整しなければなりませんが。このハーモニーの美しさにすっかり魅せられてしまい、セックピーパはここ半年で一番よく練習したマイブーム楽器(といっても元々怠け者なのでたかが知れている)となりました。また、管楽器にして単独で和声を表現できるというバグパイプの特性とその音楽の美しさ、また表現の可能性について再認識するきっかけにもなりました。
今回日本を訪問した際に、北欧音楽関係の方ともお知り合いになりましたし、これをきっかけに北欧音楽におけるバグパイプについても学んでいきたいと思います。
*****************************************************************
本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS
本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)
2011/08/21/6757
バグパイプ工房 そのだ
欧文ホームページ:http://www.bagpipesonoda.eu/
日本語ホームページ:http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/