スコティッシュ・スモールパイプスの製作工程(その2)
さて、前回に引き続き、スモールパイプスの製作工程をご紹介いたします。
13.オイルを表面に塗ります。天然植物油を複数使いますが、木材の種類によってオイルを変えます。また、同時に砥の粉を使った研磨も行います。砥の粉は日本の製品を使用しています。
14.多くの材は、オイルを塗ると美しく色が変わります。下の写真の左が「使用前」、右が「使用後」です。また、メープルなどの材には、見る角度によって見え方が変わる模様が入っていることがあり、こうした模様もオイル処理によって美しく際立ってきます。木の美しさが引き出される瞬間なので、私の一番好きな作業工程の一つです。
15.表面にオイル処理をした材をしばらく乾かした後、今度はオイルを入れた容器に漬け込みます。これは、くりぬいた木部パーツ内部にオイルを浸透させ、良い音質を得るために行います。また、表面のオイル塗布がどの程度済んだ段階でこの漬け込みを行うかによって、最終的な表面の仕上がり具合も異なってきます。なお、このように漬け込む方式ではなく、木部パーツの管の一方に栓をしてオイルを流し込み、しばらく立てかけておく方法をとる場合もあります。ここで使うオイルも、材によって変えます。
16.漬け込んだ材を取り出し、オイルをふき取って乾かします。私の場合は、この後さらに表面のオイル・ワックス処理をします。
特にこれら13~16の工程は、職人さんによって大きな違いがあります。私は天然由来のオイルやワックスを使っていますが、ニス、あるいは化学塗料を使う職人さんもおられます。天然オイルで仕上げると、仕上がりが素朴な感じになってしまいますが、天然素材だけでどこまで洗練された仕上げにできるか、というのが私の課題です。意外なようですが、バグパイプの製作を学び始めてから、もっとも難しいと感じた工程の一つがこの表面処理です。現在も試行錯誤の途中です。
17.木部パーツがほぼ完成したので、次はバッグの縫製です。革によっては、家庭用ミシンで縫うことが出来るものもありますが、今回使用した革は家庭用ミシンでは縫いにくかったため、「ハンドミシン」と呼ばれる道具を使い、一針ずつ手縫いで作りました。地味で根気のいる作業です。専用の工業用ミシンを使えば大抵の革なら縫えてしまうので、これを導入したいのですが、高価なので、まだ検討中です。
18.本体の部品が全て出来上がった状態です。
19.ストックをバッグに結わえ付けます。足の下に木片を置き、これに糸を巻きつけて、背筋をつかって糸をぴんと張りながら、きっちり巻きつけていきます。この時、引っ張っている手の部分に顔を近づけすぎると、糸が切れた勢いで顔面を直撃することがあり、とても痛い思いをするので要注意です(体験者談)。
なお、ハイランドパイプスなどのバッグ交換で苦労されている方も多いかと思いますが、バッグにストック用の穴を開ける際、ストックの直径よりも小さめにするのがコツです。ストックの直径と同じ大きさで穴をあけると、ゆるくなってしまうので、注意が必要です。
20.リードを製作し、フィッティングします。以下は、左からプラスティック・チャンターリード、葦のチャンターリード、プラスティック・ドローンリードのボディ部分(これもプラスティックの棒から手作りします)、完成したプラスティックリードです。リードは小さい部品なのですが、製作にはかなりの時間と手間がかかります。
なお、今回のお客様にお作りしたチャンターリードは、スコティッシュ・スモールパイプスの標準的なリードよりも、やや大きく強めにしてあります。スモールパイプス奏者の多くはハイランドパイプス経験者で、かなり強い空気圧での演奏に慣れておられ、これまでそうした方から、スモールパイプス用に強めのリードを製作してほしいという依頼を何度か頂いたことがあるからです。とはいえ、ハイランドパイプスに比べれば、ずっと楽に演奏できます。
21.リードのフィッティングと、真鍮リングのポリッシュをすませ、アセンブルした製品です。しかし、これで出来上がり、というわけではありません。試奏しながら全体のバランスを整え、チューニングしていく長い作業が待っています。
22.楽器の調整が済み、落ち着いた状態になったら、納品前に試奏ビデオを作製して、お客様に音を聴いて頂いてから発送します。これらのビデオはYouTubeで公開することもあれば、しないこともあります。この製品の場合は、下記URLで公開しています。
この動画も、三連符で転んだりしていていてお恥ずかしいのですが、毎度プロの演奏家に頼むこともできず、あまりお客様をお待たせするわけにもいきませんので、大抵はこのあたりで妥協してアップロードします。
http://www.youtube.com/watch?v=syHRY81TeXQ&feature=plcp
こうして製品の写真と音を御確認頂いた後、ようやく発送します。
以上、既に三学期に入って翌週が入試だというのに、まだ明治維新までしか説明が終わっておらず、維新から現代までを最後の授業の10分間で済ませてしまった新米の日本史の先生のようなまとめ方(注)で、バグパイプ製作の工程を駆け足でご紹介いたしました。皆様の演奏しておられるバグパイプが、おおよそどんな工程を辿ってできるのか、ご理解頂く一助になれば幸いです。
(注:こんな場合、入試では往々にして先生が数回の授業を使って熱っぽく語った武田信玄については一問も出題されず、その代わりに「戦後の復興とその後の高度成長において重要な役割を果たした三名の総理大臣を上げ、その政治について述べよ」みたいな問題がどかんと出題され、先生は可哀想な目にあったりする。)
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2012/05/13/13429
バグパイプ工房 そのだ
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