カテゴリー「英国とアイルランドのバグパイプ」の記事

2012年5月14日 (月)

スコティッシュ・スモールパイプスの製作工程(その2)

 さて、前回に引き続き、スモールパイプスの製作工程をご紹介いたします。

13.オイルを表面に塗ります。天然植物油を複数使いますが、木材の種類によってオイルを変えます。また、同時に砥の粉を使った研磨も行います。砥の粉は日本の製品を使用しています。

Blog2012042916_3

14.多くの材は、オイルを塗ると美しく色が変わります。下の写真の左が「使用前」、右が「使用後」です。また、メープルなどの材には、見る角度によって見え方が変わる模様が入っていることがあり、こうした模様もオイル処理によって美しく際立ってきます。木の美しさが引き出される瞬間なので、私の一番好きな作業工程の一つです。

Blog2012042917

15.表面にオイル処理をした材をしばらく乾かした後、今度はオイルを入れた容器に漬け込みます。これは、くりぬいた木部パーツ内部にオイルを浸透させ、良い音質を得るために行います。また、表面のオイル塗布がどの程度済んだ段階でこの漬け込みを行うかによって、最終的な表面の仕上がり具合も異なってきます。なお、このように漬け込む方式ではなく、木部パーツの管の一方に栓をしてオイルを流し込み、しばらく立てかけておく方法をとる場合もあります。ここで使うオイルも、材によって変えます。

Blog2012042918

16.漬け込んだ材を取り出し、オイルをふき取って乾かします。私の場合は、この後さらに表面のオイル・ワックス処理をします。

Blog2012042919

 特にこれら13~16の工程は、職人さんによって大きな違いがあります。私は天然由来のオイルやワックスを使っていますが、ニス、あるいは化学塗料を使う職人さんもおられます。天然オイルで仕上げると、仕上がりが素朴な感じになってしまいますが、天然素材だけでどこまで洗練された仕上げにできるか、というのが私の課題です。意外なようですが、バグパイプの製作を学び始めてから、もっとも難しいと感じた工程の一つがこの表面処理です。現在も試行錯誤の途中です。

17.木部パーツがほぼ完成したので、次はバッグの縫製です。革によっては、家庭用ミシンで縫うことが出来るものもありますが、今回使用した革は家庭用ミシンでは縫いにくかったため、「ハンドミシン」と呼ばれる道具を使い、一針ずつ手縫いで作りました。地味で根気のいる作業です。専用の工業用ミシンを使えば大抵の革なら縫えてしまうので、これを導入したいのですが、高価なので、まだ検討中です。

Blog2012042920

18.本体の部品が全て出来上がった状態です。

Blog2012042921

19.ストックをバッグに結わえ付けます。足の下に木片を置き、これに糸を巻きつけて、背筋をつかって糸をぴんと張りながら、きっちり巻きつけていきます。この時、引っ張っている手の部分に顔を近づけすぎると、糸が切れた勢いで顔面を直撃することがあり、とても痛い思いをするので要注意です(体験者談)。

 なお、ハイランドパイプスなどのバッグ交換で苦労されている方も多いかと思いますが、バッグにストック用の穴を開ける際、ストックの直径よりも小さめにするのがコツです。ストックの直径と同じ大きさで穴をあけると、ゆるくなってしまうので、注意が必要です。

Blog2012042922

20.リードを製作し、フィッティングします。以下は、左からプラスティック・チャンターリード、葦のチャンターリード、プラスティック・ドローンリードのボディ部分(これもプラスティックの棒から手作りします)、完成したプラスティックリードです。リードは小さい部品なのですが、製作にはかなりの時間と手間がかかります。

Blog2012042923

 なお、今回のお客様にお作りしたチャンターリードは、スコティッシュ・スモールパイプスの標準的なリードよりも、やや大きく強めにしてあります。スモールパイプス奏者の多くはハイランドパイプス経験者で、かなり強い空気圧での演奏に慣れておられ、これまでそうした方から、スモールパイプス用に強めのリードを製作してほしいという依頼を何度か頂いたことがあるからです。とはいえ、ハイランドパイプスに比べれば、ずっと楽に演奏できます。

21.リードのフィッティングと、真鍮リングのポリッシュをすませ、アセンブルした製品です。しかし、これで出来上がり、というわけではありません。試奏しながら全体のバランスを整え、チューニングしていく長い作業が待っています。

Blog2012042924

22.楽器の調整が済み、落ち着いた状態になったら、納品前に試奏ビデオを作製して、お客様に音を聴いて頂いてから発送します。これらのビデオはYouTubeで公開することもあれば、しないこともあります。この製品の場合は、下記URLで公開しています。

 この動画も、三連符で転んだりしていていてお恥ずかしいのですが、毎度プロの演奏家に頼むこともできず、あまりお客様をお待たせするわけにもいきませんので、大抵はこのあたりで妥協してアップロードします。

http://www.youtube.com/watch?v=syHRY81TeXQ&feature=plcp

 こうして製品の写真と音を御確認頂いた後、ようやく発送します。

 以上、既に三学期に入って翌週が入試だというのに、まだ明治維新までしか説明が終わっておらず、維新から現代までを最後の授業の10分間で済ませてしまった新米の日本史の先生のようなまとめ方(注)で、バグパイプ製作の工程を駆け足でご紹介いたしました。皆様の演奏しておられるバグパイプが、おおよそどんな工程を辿ってできるのか、ご理解頂く一助になれば幸いです。

(注:こんな場合、入試では往々にして先生が数回の授業を使って熱っぽく語った武田信玄については一問も出題されず、その代わりに「戦後の復興とその後の高度成長において重要な役割を果たした三名の総理大臣を上げ、その政治について述べよ」みたいな問題がどかんと出題され、先生は可哀想な目にあったりする。)

**********************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2012/05/13/13429

バグパイプ工房 そのだ

欧文ホームページ:http://www.bagpipesonoda.eu/

日本語ホームページ:http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2012年4月29日 (日)

スコティッシュ・スモールパイプスの製作工程(その1)

 私が日本に住んでおりました時に大変お世話になったパイパーさんから、プラム材を使ったスモールパイプスのご注文を頂いた際、この製品の製作工程の写真を撮影し、HPなどで掲載して欲しいとのリクエストがありました。この機会に、バグパイプが出来る過程をご覧頂こうと思います。バグパイプの作り方を詳細に解説すると、恐らく本が一冊書けてしまうくらいの量になりますし、経験しないと分からないこともありますので、ごく大まかにしかご紹介できませんが、どんな工程を経てバグパイプが出来るのか、大まかなイメージはつかんで頂けるかと思います。

 また、折に触れて申し上げておりますが、作り方も職人さんによって様々です。ここでは私が普段行っている代表的な工程をご紹介しますが、他の職人さんがこれらと違う方法を採用していることも少なくありません。どれがいいのか、ということではなく、それぞれのバグパイプを作っている職人さんとその楽器の個性として捉えて頂き、その違いをバグパイプの多様性として楽しんで頂ければ幸いです。

 それでは前置きはこのくらいにして、材料から一つのバグパイプが出来るまでの過程をご覧頂きましょう。

1.まず、木を切ってきて、数年間乾燥させます(そんなに待てない、という人は、乾燥済みの材を材木屋さんから仕入れましょう)。下の写真は、知人からもらったものですが、レーゲンスブルグのアパートの地下室で30年以上自然乾燥させた、年代もののプラム材です。最近のスモールパイプスはアフリカンブラックウッドや黒檀などの黒い硬木で作られることが多いようですが、総プラスティックのモデルも割安で売られておりますし(きちんとしたメーカーのものなら、いい音がします)、昔は色々な木で作られていたようですから、絶対に黒い木でなければならないという規則はありません。興味深いことに、同じスコティッシュ系でも、ボーダーパイプスでは多様な材を見かけます。

Blog2012042901_4   

2.この材を、適切な長さの丸太に切ります。以前は普通ののこぎりで切っていたのですが、最近チェーンソーを買い、作業が早くなりました。

Blog2012042902

3.丸太になった材を、のこぎりと斧を使って縦割りにします。右の写真が縦割りにした後のものです。プラムは欧州産の材の中ではかなり硬く、またきれいな筋が入っていて色目も美しい材です。また、時間とともに色が濃くなり、味わいが出てきます。

Blog2012042903_4 Blog2012042904_3

4.縦割りにした材を、さらに角材状に切り出し、それを旋盤にかけて丸棒状にします。この時に、腐っている箇所や節、虫食いの部分を見つけて、それらの部分は除いておきます。Blog2012042905

5.丸棒にした材をくりぬくボア工程に入ります。旋盤に木材を固定して回転させ、ドリル刃をあてがって掘り進めて行きます。細い直径の穴で長い木材を貫通させる場合には、ガン・ドリルという特殊なドリル刃を使います。

Blog2012042906

6.くりぬいて筒状になった木材を、旋盤を使って成形していきます。マウントや補強リングをはめるパーツの場合は、リングの内径に応じてはめ込み先の部分を削ります。ここでは、ゼロ・コンマ数ミリの削りすぎは致命的です。

Blog2012042907

7.はめ込むためのリングを作ります。リングは、金属、他の木材(硬いもの)、人工象牙、プラスティックなどです。まず、真鍮のパイプと、それを切る工具の写真です。その次が、切り出した真鍮リングの内部に生じる「バリ」を削り取る作業です。これを怠ると、木材のパーツに上手くはめることができません。

Blog2012042908_2  Blog2012042909_2

8.木材や人工象牙のリングは、上記5のボア工程と同じ作業で作ります。下の写真は、出来上がった真鍮と黄楊のリングです。

Blog2012042910

9.リングを、ボア済みの木材パーツに接着します。このとき使用する接着剤は、リングの材質によって異なります。

Blog2012042911

10.接着剤が乾いたら、旋盤で最終的に成形します。

Blog2012042913

11.チャンターには、指孔をあけます。大変気を使う作業です。チャンターを固定する台は可動式にしてあります。大手のメーカーさんには、データをインプットしたら自動で音孔をあけてくれるコンピュータ制御の機械を使っているところもあるそうです。当工房は多品種少量生産の零細ですから、ボール盤に手製の台座を取り付けただけのものです。

Blog2012042915_2 

12.表面処理前の木部パーツです。ほぼ完成しているように見えますが、実はこれからの細かい作業が大変で、気分的にはまだ30%くらい終わった段階に過ぎません。

Blog2012042914

次回は、上記に続く、表面処理、バッグの縫製、アセンブルなどの作業をご紹介します。

**********************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2012/04/29/13090

バグパイプ工房 そのだ

欧文ホームページ:http://www.bagpipesonoda.eu/

日本語ホームページ:http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2011年9月18日 (日)

日本人作曲家によるハイランドバグパイプのための現代曲

 先日ふとしたきっかけで、パリ在住の作曲家である吉田進氏からご連絡を頂く幸運に恵まれました。氏はフランスで30年近くにわたり、現代音楽を中心に作曲活動をされておられますが、昨年ハイランド・バグパイプのための「祈り」という曲を作曲され、この春フランス・グルノーブル市の教会で初演、好評を博したそうです。  以下、吉田氏ご自身による「祈り」の解説を、原文のままご紹介いたします。

《祈り》~バグパイプのための

作曲・吉田 進 

(2010)

「シャンティエ」委嘱作

 バグパイプはスコットランドのものが世界的に有名だが、同種の楽器はアフリカにもアジアにもある。アジアではインドにあるが、日本には存在しない。しかし、雅楽の管絃で用いられる笙は、聴く人を麻痺させるような効果がある点でドローン管(低音管)に似ているし、篳篥の音は「チャンター(旋律管)」のそれを想わせる。

 バグパイプがほかの楽器と異なる最大の点は、発音するエネルギーを与えるための息を袋に吹き込む行為が、奏される音楽の運動とは無関係なことである。フルートであれば、吹き込む息がそのまま旋律のフレーズを形作るし、ヴァイオリンであれば、弓の上下がフレーズを生む。バグパイプの場合は、袋に息を吹き込む行為と、チャンターから紡ぎ出される音楽のフレーズの間に、直接の関連はない。僕はここに、バグパイプという楽器の尋常ならぬ客観性、冷静さを見る。

 ドローン管の豊かな響きと、これに対するチャンターの各音階音、そしてバグパイプに多用される装飾音。これら3要素の幸福な組合せを実現したいと念じたら、「祈り」が聞こえて来た。祈りはこの数年来、僕にとって大切なものである。ここでは、装飾音が旋律音を「装飾するもの」ではなく、それ自体が旋律の主要な要素となっている。」

 

 吉田氏のご厚意で、「祈り」の初演ライブ録音のCDを送って頂き、私も拝聴いたしました。氏は現代音楽を中心に作曲活動をされており、この「祈り」もジャンルとしては現代音楽に属しますが、私が曲を聴いた第一印象は、「ピブロックに通じるものがあるのでは」、というものでした。その感想を氏にお伝えしたところ、初演で本曲を演奏したフランス人パイパー、エルワン・ケラヴェック氏も、同様の感想を持たれたとのことでした。  

 吉田氏ご自身はパイパーではなく、またピブロック自体は聴いたことも、また楽譜も見たことがないそうですが、本曲の作曲に際してハイランドパイプスの資料を集めておられたところ、ピブロックに関する「緩やかで、高貴で、荘厳であり、一種の瞑想である。主題に始まり、変奏が続くが、その都度特殊な装飾音が用いられる。」という解説が目に留まり、自分の書きたい曲と精神的につながる部分ある、とお感じになったそうです。もちろん曲の形式も含めて、「祈り」はピブロックとは全く異なりますが、作曲に際しての吉田氏のそのような精神的な動機というか、曲のハートの部分が、結果的に聴く者の心にピブロックを想起させた、というのはとても興味深いと思います。やはり音楽は心、ということでしょうか。

 この曲は「シャンティエ」というフランスの文化保存団体からの委嘱だそうですが、そうした組織から日本人の作曲家がバグパイプのための現代曲を依頼されたというのは、同じ日本人としてとても嬉しく思います。また、バグパイプを民族楽器としての枠にとどめず、それを用いて新しい音楽を表現する可能性の一つを提示した、という点でも、大きな意義があると思います。吉田氏とは電話でもお話ししましたが、「バグパイプによるトラッドの演奏が素晴らしいのはもちろんだが、こんな面白い楽器なのだから、その特性を活かして他のジャンルの音楽でもどんどん使われるようになると楽しいですね」と意気投合しました。

 ちなみに「祈り」は、通常のハイランドパイプス向けに用いられるAでの記譜ではなく、実音(に近い)Bbで記譜されています。初演の奏者ケラヴェック氏はブルターニュの奏者だそうですが、ブルターニュの「バガド」ではBbの楽譜を使うことが多いようです(ブルターニュでは戦後ハイランドパイプスを導入し、チャルメラのような伝統楽器「ボンバルドゥ」と一緒に伝統音楽を演奏するスタイルを確立し、そのバンドは「バガド」と呼ばれています)。私も知人のブルターニュ人からもらった楽譜を持っておりますが、それらもやはりBbで記譜されています。ただ、ハイランドパイパーの間で広く演奏してもらうためには、Aでの記譜が読みやすいことから、将来的にはAで記した譜面にして出版したいとのことです。  

 なお、「祈り」は、来る9月21日からフランス・ストラスブールで開催される世界最大の現代音楽フェスティバル、「Musica」でも演奏が予定されています。商業用のCD化も予定されているそうですので、こちらも楽しみですね。  吉田氏のホームページにも、「祈り」に関するコメントが載せられていますので、氏の活動やこの曲にご興味のある方は、ご覧になってみてください。バグパイプと並んでドローン楽器のもう一つの代表格であるハーディ・ガーディの曲も手がけておられます。(吉田進氏ホームページ:http://www.creaters-index.com/composer/syoshida/5555

*****************************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2011/09/18/7491

バグパイプ工房 そのだ

欧文ホームページ:http://www.bagpipesonoda.eu/

日本語ホームページ:http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

 

2011年7月25日 (月)

バグパイプ新製品(スコティッシュ運指)のご案内

 この度、「ミンストレル・パイプス」というバグパイプを新発売しました。

 構造的にはD管スコティッシュスモールパイプスですが、欧州産木材を使い、英国で随所に見られる昔のパイパーの彫像を参考にした「クラシックな」デザインを採用し、遊び心を持たせた楽器です。

Cimg3083_2 Cimg4691

 当工房の「小型中世バグパイプ」に似ていますが(だいたい昔の彫像のバグパイプはどれも似たような形をしてますのでご勘弁を・・・)、運指はハイランドと同じです。また、ドローンは上の写真のように外向きだけでなく、ハイランドのような上向きや、通常のスモールパイプスのように胸の前を横切る形でも取り付けられます。また、ふいご式も可能です。

 ところで、この楽器を作ってみようかなと思ったのには、次のような経緯があります。

 ここ数年、欧米では「中世祭り」や「ルネサンス祭り」などの催しが盛んに行われるようになりました。そこで欠かせないのがバグパイプの演奏。しかし、使われているのは中世風デザインのバグパイプがメインで(但し演奏されている曲は必ずしも当時の音楽ではない)、現代型のハイランドパイプスやスモールパイプスは活躍の場が少ないのが現状です。スコットランド系パイパーにも中世ファンの方は多いのですが、こうした方々が古いバグパイプの雰囲気を楽しみながらレパートリーを演奏できる楽器があればいいのに、と常々考えていました。

 そんな時、ある日本人バグパイプ奏者・指導者の方とお話しする機会がありまして、「初心者パイパーや学生さんが、家で気軽にアメージンググレースを演奏できるような、安価なパイプスは作れないかな」というご相談を受けました。さらには、「せっかくハイランドパイプスを始めても、吹くときの苦しさで挫折してしまい、それっきりスコットランド音楽とは縁がなくなってしまう人が多くて残念だ」というようなお話も伺いました。

 もちろん、屋内での演奏となれば、通常のスモールパイプスもありますし、いくつかの有名メーカーが作っているプラスティック製の小型パイプスも安価で手に入ります。そこで、これらと差別化しつつ低価格を実現するため、「地場産の木材」を使って、「シンプルな中世風デザイン」のスコティッシュ・パイプスを作ることにしました。欧州地場産の木材は良質な材でもアフリカ産のものより格段に安く、またシンプルなデザイにすれば楽器の質を落とさずに作業時間を短縮できるため、低価格が可能になりました。価格は「小型中世バグパイプと同じく、一本ドローンタイプ355ユーロ*からです。*現在のレートで4万円前後。

 ちなみに、商品名の「ミンストレル・パイプス」は私の勝手な命名ですが、「ミンストレル」というのは「吟遊詩人」という意味で、このバグパイプのデザインを象徴しています。それと同時に、スコットランドのバグパイプ音楽を、ちょっと違った解釈で演奏してみようかな、という方にもお使い頂きたい、という願いがあります。例えば、現在ハイランドパイプスのレパートリーとなっているトラッドには元々「歌」だったものが少なくなくありませんが、そういうトラッドをボーカルやハープと一緒にしっとりと演奏してみるとか、あるいは(D管なので)アイリッシュのフィドルやイリアンパイプスと一緒にスコティッシュを演奏してみる等、いろんな楽しみ方を工夫して頂ければと思います。もちろん、構造的にはスモールパイプスですから、ビシっとグレースノートをキメたスタンダードな演奏も可能です。但し、ブラックウッドよりも柔らかい欧州産木材なので、音色はややマイルドです。

 できれば近いうちにサンプル音源を録ってご紹介したいと思います。

*****************************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2011/07/25/6144

バグパイプ工房そのだ

http://www.bagpipesonoda.eu/

http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2011年4月12日 (火)

DIYのスコティッシュ・スモールパイプス

 DIY(Do it yourself)を楽しむ人はどの国にもいると思いますが、ドイツは住宅事情が良い上に、サラリーマンは余暇の時間が多いので、DIYがかなり盛んです。私の友人にも、翼幅5メートルもある巨大な模型飛行機を、設計段階から作ってしまう猛者がいます(それを飛ばしたりもする)。当然ながら趣味でバグパイプを作る人もいて、一部の上級者はほとんどプロと変わらないものを作ります。そこまで至らなくても、自分でバグパイプを作ってみたいという人も多く、以前ブログで紹介した年末年始のバグパイプ製作コースでは、こうした方々に製作工程を体験して頂いています。また、コース以外でも、個人的に私のところに相談に来られる方も結構いらっしゃいます。

 さて、(あまり知られていませんが)私はスコティッシュ・スモールパイプスも作っておりまして、私の友人二人がこれを作ってみたいというので、製作のサポートをしたことがあります。以下の写真は彼らの作った楽器です。

Cimg4536 Cimg4391

 どちらも口吹き式のA管で、材は黒檀です。右の楽器で赤く見えるのが、ピンクアイボリーという木で作ったマウント・装飾リングで、これは木材の天然の色です。左の楽器では、これをオリーブの木でマウントを作っています。一部難しい工程やリードの製作は私がお手伝いいたしましたが、デザインや外側の旋盤加工は本人達の作業です。

 スコティッシュ・スモールパイプスをお持ちの方はご存知かと思いますが、スモールパイプスは運指こそハイランドパイプスと同じものの、構造的にはハイランドと大きく異なっています。ハイランドがラッパ状に開いていくチャンターになっているのに対し、スモールパイプスは極めて狭い内径でまっすぐにくりぬかれていて、むしろヒュンメルヒェンに近い構造をしています。そのため、音色もハイランドとは全く別で、同じ曲を演奏してもずいぶんと印象が異なります。A管になると、チャンターの長さはむしろハイランドのチャンターよりも長く、コンサートピッチで作ってあれば音もハイランドより半音以上低いですから、低音部の「ボッ」という響きが、なんともいえず心地よい楽器です。

 上記写真左の楽器を作った人が、リード交換のために私に預けていきましたので、この機会に音を録ってみました。DIYスモールパイプス、こんな音がします。

http://www.youtube.com/watch?v=dtEU1KDk9IY

 最近、アフリカンブラックウッド、ジャーマンシルバー、人工象牙を仕入れたので、今度はこれらを使ってスモールパイプスを作ってみようかなと思っています。

**********************************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2011/04/12/3872

バグパイプ工房そのだ

http://www.bagpipesonoda.eu/

http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2011年2月 1日 (火)

バロック時代とバグパイプ(その2) - ハイランドパイプスのドローン

 ハイランドパイプスのファンの方なら、映画「ブレイブ・ハート」をご覧になったことがあると思います。会戦シーンで、丘の上にちらっとバグパイプ奏者が出てきますね。ほんの一瞬ですが、普段見慣れているハイランドパイプスだとわかります。

 ところで、映画の中でメル・ギブソンが演じているウイリアム・ウォレスは、13世紀後半から14世紀初めの人ですが、この時代のスコットランドのバグパイプに関しては信憑性のある資料が乏しく、実態はよく分からないそうです。ただし、ちょっと版は古いですが、手元にあるグローブ音楽事典によれば、13世紀にはイギリス全土で「バグパイプ」が使われていたとのことで、ウォレスの時代のスコットランドにバグパイプがあったことは十分考えられます。

 しかし、当時のブリテン島のバグパイプは、チャンターだけか、ドローンがついていても一本だけとされており、形も現在のハイランドパイプスとは大きく異なっていたでしょう。これも版が古くて恐縮ですが、平凡社の音楽大事典によると、ハイランドパイプスの祖先に二本目のドローンがついたのは16世紀初頭、現在のように三本のドローンを備える形になったのは17世紀後半だそうです(普段苦しい思いをして三本のドローンを鳴らしている立場からすれば、まったく余計なことを、と思わないでもありませんが)。18世紀初頭の絵画には、既に現在のハイランドパイプスと殆ど同じ形のパイプスが描かれています。このあたりは、ちょうどバッハやヘンデルなど、バロック時代の巨匠が活躍していた時代。工業技術水準の向上に伴って、色々な楽器も大きく進化を遂げています。

 余談ですが、上記で参照したような少し古い百科事典を見ると、色々な国のバグパイプに言及はしているものの、ハイランドパイプス以外のバグパイプについては「今では廃れてしまった」「現在は殆ど使われていない」「博物館にしかない」という、悲しい説明があったりします。仕事柄、色々なバグパイプが実際に楽しく演奏されている場面を見る機会も多いので、そんなことはないっ、といいたいところですが、実は多くのバグパイプが復元され、再び使われるようになったのは、20世紀も終盤に入ってからです。ですから事典が書かれた当時は、実際にそういう状況だったのでしょう。色々なバグパイプが復活しつつある現在。良い時代になったなあと感じています。

**********************************************************************

本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

バグパイプ工房そのだ

http://www.bagpipesonoda.eu/

http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2010年11月25日 (木)

講演:「スコットランドのバグパイプとケルト文化における位置づけ」は今週末です。

以前の記事で紹介しました標記講演(お話:東京パイプバンドPM・山根篤さん)は、今週末に博多で行われます。九州地方・中国地方在住の方、どうぞお聞き逃しなく!詳細は下記記事をご参照下さい。

http://bagpipesonoda.air-nifty.com/blog/2010/10/in-b6ed.html

(本ブログの更新情報はTwitterで掲示しています。こちらです→ http://twitter.com/BagpipeMakerTS

(本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

バグパイプ工房そのだ

http://www.bagpipesonoda.eu/

http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

2010年11月17日 (水)

アイリッシュ・パイプバンドの曲

前回の記事で参照したヒュンメルヒェンによる「アメージング・グレース」の演奏をビデオに撮った際、ついで。といってはなんですが、この時「ミンストレル・ボーイ」("The Minstrel Boy")という曲も一緒に録音しました。こちら→ http://www.youtube.com/watch?v=ZuNUwPGHy3A&feature=mfu_in_order&list=UL

この曲は、10年ほど前にニューヨークのパイプバンドに居た際に習ったもので、彼の地のアイリッシュ系パイプバンドでは重要なレパートリーになっています。スコティッシュ・パイプバンドでいえば"Scotland the Brave"や "Green Hills of Tyrol"のような位置づけでしょう。ニューヨーク五番街で行われるセント・パトリックデー・パレードでは、最も頻繁に演奏される曲の一つです。アイルランド本国のバンドで採用されているかについては存じませんが、数年前にミュンヘンのセント・パトリックデーで、アイリッシュの方々に乞われて演奏したところ、彼らは「狂喜」していましたし、現在私が所属しているミュンヘンのバンドのアイルランド人パイパー達もよく知っていますので、本家アイルランドでも、今もってポピュラーな曲なのではないかと思います。

ニューヨークのバンドに居た時に気づいたのですが、ニューヨークにはアイリッシュ色が濃いバンドとスコティッシュ志向が強いバンドがあります。それによって、レパートリーの曲の傾向も異なるのが興味深いところです。ニューヨーク地区は、数で言えばアイリッシュ系バンドが圧倒的に多く(当時)、また一般の人たちの間でも、ハイランドパイプスを見てスコットランドよりもむしろアイルランドを思い浮かべる人が多いようでした。もちろんこれは移民の人口構成に左右されるでしょうから、米国内でも他の地域では事情が違ってくるとか思います。

(本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2010年10月17日 (日)

ご案内:バグパイプに関する講演 in 博多

「スコットランドのバグパイプとケルト文化における位置づけ」

11月28日に福岡で、東京パイプバンドのパイプメジャー、山根篤さんによる、上記タイトルの講演があります。特にハイランドパイプスは、軍楽のイメージで語られることが多いですが、、他の多くのバグパイプと同じように、歌や踊りなど、市井の人々の日常の生活とも深く係わってきた歴史もあります。今回の講演では、そのような点も含めて、スコットランドのバグパイプの色々な側面とその発展、また様々な国のバグパイプ事情など、実際の演奏も交えながら、お話しして頂けるそうです。既にバグパイプを演奏されている方、あるいはこれから始めたいと考えておられる方には、とても興味深い内容かと思いますので、足を運んでみてはいかがでしょうか。

当該講演は、当日行われる日本ケルト協会主催の催しの一つで、その日は他にも下記のプログラムが予定されているそうです。詳細は下記をご覧下さい。

日時:11月28日(日) 13:30~16:30 (文化紹介展示は午前中から)

場所:こくさいひろば (アクロス福岡3F) 福岡市中央区天神1-1-1- 3F

プログラム:

13:30~14:00  「ケルト文化とアイルランド~映画『地球交響曲第一番』に観る~」

14:00~15:30  「スコットランドのバグパイプ と ケルト文化における位置づけ」

15:30~15:45 スコティッシュダンス

15:45~16:30 アイリッシュダンスと音楽 

参加費:無料

※会場ではアイルランドの紅茶やポーターケーキをお楽しみいただけるそうです。

主催:日本ケルト協会  (財)福岡県国際交流センター

なお、上記講演に関するお問い合わせは、下記へどうぞ。

連絡先:日本ケルト協会 事務局 keiko-y@celtic.or.jp (または電話 092-812-0939)

おことわり:、私本人(または当工房)は上記催しの企画・運営に携わっておりませんが、山根さんが上記講演をされる旨、山根さんから個人的にお伺いした際、バグパイプファンの皆様に興味を持って頂ける内容と考えましたので、当ブログでもご案内をさせて頂きました。なお、当ブログでの掲載については、山根さんの実名表示も含め、山根さんご本人ならびに日本ケルト協会事務局のご承諾を頂いております。

バグパイプ工房そのだ

http://www.bagpipesonoda.eu/

http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

フォト

当工房のバグパイプ

  • 2.2 セックピーパ(スウェーディッシュ・バグパイプ):ドローン
    当工房で製作しているバグパイプの一部をご紹介いたします。
無料ブログはココログ