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2013年1月20日 (日)

ブローパイプバルブの素材・プラスティックドローンリードの舌の交換

 皆様、大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 前回ブログを更新したのが昨年の10月初旬ですから、三ヶ月以上ブログをほったらかしにしておりました。実はこの間、試作的要素の多いご注文への対応や、2008年から毎年行っているバグパイプ製作コースの準備等で多忙を極め、時間的にも精神的にもブログに向き合う余裕が全くなく、随分とご無沙汰してしまいました。大変失礼致しました。

 ブログをサボっていた言い訳はこれくらいに致しまして、まずは前回記事のブローパイプバルブに関する記事のフォローアップから。前回の記事で、ゴム製バルブの作り方として、バルブが反ってしまうのを防ぐためにゴムを二重にすることをご紹介しました。その際、シリコンを使えばいいかも、と言及しましたが、その後、オーブンでクッキーなどを焼く時に敷くシリコンマットを入手。これをバルブに使ってみたところ、なかなか使い心地がよいことがわかりました。厚さは1mm程度のもので、こちらでは4ユーロで買いましたが、日本でも1000円くらいで手に入るそうです。バルブの作り方はゴムの時と同じで、二重にしなくてもよいですから、より簡単です。一つ買えば、一生バルブに困らないくらいの大きさがあります。

 では、本日の本題にはいりましょう。プラスティック・ドローンリードが壊れてしまった場合の交換方法について、ご紹介します。時折、ドローンリードの舌をうっかり曲げてしまった、というご相談を頂きますが、そうした場合には以下の方法で補修できます。もっとも、これは私が最近作っているプラスティックドローンリードに対応して説明させて頂いておりますので、他のメーカーさんの楽器をお持ちの方は、多少のアレンジ・工夫をして頂く必要があるかもしれません。あるいは、リードの形状によっては以下の方法では対応できない場合もあります。リードの構造や設計は各メーカーさんによって異なりますので、その点は何卒ご了承下さい。

 さて、一般的なプラスティック・ドローンリードは、プラスティックあるいはその他の素材で出来た鞘の部分に、薄いプラスティックの切片で出来た「舌」を取り付けた構造になっています。舌の部分が折れ曲がったりして壊れても、この鞘の部分は使えますので、鞘は捨てないで下さい(私の製品の場合、この鞘がドローンリードの値段の大部分を占めています!)。

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(写真1:当工房のプラスティックリードの鞘。鞘の部分は、プラスティックのほか、アフリカンブラックウッドや黄楊等の硬木の端材で作っています。)

 「舌」の部分の素材として一般的なのが、ポリスティロール(PS)です。チャンターリードもドローンリードも、舌の部分はこの素材で作られることが多いです。このポリスティロールは、模型専門店などで色々な厚さのものを売っています。一方、既にご存知の方も多いかと思いますが、ポリスティロールは食品容器の素材として広く利用されているので、ヨーグルトやアイスクリームなどの容器を切ったものでも十分使用できます。私はスーパーでアイスクリームなどを買う場合、多少味が劣っても、ついついポリスティロール容器に入っているものを選んでしまいます。

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(写真2:ポリスティロールの食品容器)

 こうした容器の、平らでまっすぐな面を短冊状に切り出します。多くの場合、一つの容器から、色々な厚みの短冊をとることができます。私はバグパイプの種類やドローンの音程に応じて、0.3mmから0.5mm程度の厚さのものを使い分けています。もとのプラスティック舌の幅と厚さを測っておき、同じサイズのものを切って使うとよいでしょう。

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(写真3:切り出したポリスティロールの切片)

 切り出した短冊状のプラスティックを、適切な長さに切り、これを鞘の部分にテープで仮どめします。これは次の段階で舌を固定する際、ずれないようにするためです。

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(写真4:ポリスティロールの切片をテープで仮止め)

 次に、プラスティックの舌を固定します。昔のモデルではテフロンテープで巻いて固定していましたが、最近はゴムチューブを使って固定するようにしています。ゴムチューブは東急ハンズで安く手に入ります。

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(写真5:ゴムチューブを適切な長さに切断)

 短く切ったゴムチューブをかぶせて、舌を鞘に固定します。これは、ゴムチューブでなくても、テフロンテープやビニールテープで固定しても構いません。このとき、舌がゴムチューブからはみ出している部分の長さ、即ち舌が振動する部分の長さは、音程を決める上で重要です。ですから、壊れたリードの舌を交換する前に、振動部分の長さを測って書き留めておくことをお勧めします。

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(写真6:ゴムチューブをかぶせてプラスティックの舌を固定)

 取り付けた舌が空気の流れによって振動するためには、舌と鞘の間に僅かな隙間があることが必要です。舌と鞘の間に根元までカッターの刃を差込み、刃をクイッと上に傾けて舌に折り目をつけると、舌と鞘の間に隙間ができます。このとき、親指で舌の根元をしっかり押さえて、根元の部分にきちんと折り目ができるようにします。カッターの刃で指を切らないように注意しましょう。

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(写真7:舌の部分を折り曲げる)

 この折り曲げが大きすぎると、隙間が大きくなりすぎて、舌を振動させるのに大変な量の空気が必要になったり、あるいは舌が開きっぱなしになって空気だけが抜け、音が出ないといったことになります。一方、折り曲げが小さすぎると、すぐにリードが閉じて音が止まってしまいます。ただ、適切な開き具合は、楽器や演奏者のクセによって異なってきますから、この部分は個人個人で試行錯誤が必要です。

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(写真8:適切な開き具合に折り曲げた舌)

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(写真9:先端方向から見た場合)

 この段階でドローンに差し込んでみて、きちんとした高さの音がでるなら、これで完成です。しかし、音は出るけど低すぎる、又は高すぎる場合、これを調整しなければなりません。もし音が低すぎる場合、舌の先端を少し切り詰めて短くしてやります。

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(写真10:舌の先端をカット。鞘を傷つけないよう、舌と鞘の間にボール紙をはさむ。無理やり切ろうとすると、刃が滑って指を切るので注意しましょう。)

 音が高すぎる場合、舌をもう少し長いものに交換するか、やや開き具合を大きくします。もう一つの方法は、舌の上にワックスや文房具店で売っている「ひっつき虫」をひとつまみ、オモリとして乗せてやります。基本的には、舌の先端の方に乗せればのせるほど、そして乗せる量が多いほど、音は低くなります。ただ、あまり沢山乗せすぎると、上手く振動しません。

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(写真11:舌の上にのせたオモリ)

 ドローンリードは、舌が壊れても、鞘さえ無事なら、身の回りのもので十分対応できる場合が多いので、そのような場合は一度上記をお試し下さい。もちろん、最初はうまく行かないかもしれませんが、決して難しい技術を要するものではないので、何度かやっているうちにコツが分かってくると思います。

<今日の一枚>

 最初に述べました通り、特に昨年あたりから試作的要素の強いご注文を多く頂いております。特に既存製品の規格に無いチャンターを設計する場合、何本も試作チャンターを作っては内径やテーパー比、音孔のポジションなどを色々と試してみるわけです。試作チャンターと言っても、実際に製品にした状態で鳴ることを確認する必要があるので、チャンター内部・外部もきちんオイル処理を施します。試作リードも、再現性を確保しておく必要から、必ず数本作ります。

 さて、以下の写真は、そんな試作過程のワンシーンです。

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 これはドイツのお客様からご要望があった特別なC管ドゥダイの試作チャンターの一本目です。リードとチャンター内径を確定した後、あたりをつけてチャンターに音孔をあけてみたら、全体的に音が高かったため、音孔を同じ木材の端材でうめて、再利用を企てているところです。杭のように差し込んだ端材を根元で切り落とし、チャンター表面にもう一度やすりをかけ、内部のボアをきれいにすれば、再利用ができます。手間がかかりますが、それでも新しい試作チャンターを一からつくるよりはずっと早いです。このあと、数本きれいな試作チャンターを作り、音孔ポジションを微調整しながら確定した後、最終製品を作って納品しました。

 なお、音が高すぎる場合、理論的にはリードのポジションをもう少し上にするとか、リードをもう少し低めに調整する、などの方法で解決を図ることも可能ですが、この時はリード自体はよく出来ていたことと、シングルリードの場合は(ドゥダイはシングルリード・チャンター)チャンターの長さとリードの相性が大切なので、音孔の位置を変えることで対応しました。

 <現在取り組んでいる試作バグパイプ>

  • ドゥダィD管キー付きチャンター(カーボンリードの設計並びにチャンターの音孔ポジションを確定。1年以上お待たせしておりますが、ようやく試作段階が終わりつつあるので、近日中に製品化できそうです。)
  • A-minor仕様のガイタチャンター(内部のテーパー構造を確定)
  • ボーダーパイプス(チャンター内部のテーパー構造を確定)

 昨年後半、ヒュンメルヒェンで色々なバージョンを作ったほか、ボック系バグパイプでも新しい試みをしたので、次回以降の記事でおいおいご紹介したいと思います。

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