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2012年9月 9日 (日)

「ドイツ」のバグパイプ・シェーファープファイフェ。しかしその実態は?

 先日、久しぶりにバンド(ハイランド)の練習に行った際、シェーファープファイフェを持っているパイパー・ハンス君(ドイツ人)と彼の楽器について話をしていたところ、別のパイパー(スコットランド人)が「シェーファープファイフェって何だ?」と尋ねてきました。そこで、ハンスが答えて曰く、「フランスのバグパイプだよ。」

 前回の記事で、当工房の新製品として、シェーファープファイフェのご案内をいたしました。その際、ヒュンメルヒェンと並んで最も人気のあるドイツのバグパイプ、としてご紹介しました。では、なぜハンスはこれを「フランスのバグパイプ」と言ったのでしょうか。

 実は、現在作られているシェーファープファイフェの多くは、フランスのバグパイプであるコルヌミューズ(Cornemuse de centre)の形を変えた楽器、と言ってもよいのです。下の写真は、私が6~7年前に、某バグパイプ職人さんの指導の下で作ったコルヌミューズです。

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 ご覧のように、テナードローンがチャンターの横に並列して取り付けられているのが特徴で、一見するとシェーファープファイフェ(下写真)とは違う楽器のように見えます。

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 しかし、現在作られているシェーファープファイフェの多くは、コルヌミューズとはストックの形状やドローンの取り付け位置が異なっているだけで、チャンターの構造や運指、ドローンの構成は全く同じなのです。従って、楽器を見ないで音だけ聴くと、区別が付かないでしょう。 さらに、ドイツ型のシェーファープファイフェ奏者の多くが、フランスの曲を好んで演奏します。特に、ハーディガーディ等との合奏で、ブーレなどフレンチ・フォークダンスの伴奏をするのは、シェーファープファイフェの楽しみ方として大きな比重を占めます。ちなみに、私がサウンドサンプルビデオで演奏している曲もフランスのトラッドです(曲名:Valse a cadet こちら→http://www.youtube.com/watch?v=3b6R7mzyMQA)。楽器の調も、フレンチトラッドを演奏しやすいG管が主流となっています(この他、D管やC管もみかけます)。

 このためドイツでは、フランスのコルヌミューズを、しばしば「フランスのシェーファープファイフェ」、又は単に「シェーファープファイフェ」と呼びます。実際、前述のハンスが持っているのもコルヌミューズであり、彼は日常的にそれを「シェーファープファイフェ」と呼んでいるのです。

 このように、現在のシェーファープファイフェの実態は、フランスのコルヌミューズの一形態、と言っても過言ではありません。一方、過去においてもシェーファープファイフェが実質的にコルヌミューズと同じ楽器だったのかといえば、そうではなさそうです。

 恐らく、(ドイツ型)シェーファープファイフェを作っているメーカーさんのほとんどが、プレトリウスの「音楽大全」のスケッチのデザインを意識して製作しているものと思われます(下図、楕円で囲んであるのがシェーファープファイフェ)。しかし、構造面では現代のシェーファープファイフェと一つの大きな違いが見られます。即ち、「音楽大全」に記されているシェーファープファイフェのチャンターはその音域(e~f')からF管と思われますが、二本のドローンはバスがBb、バリトンがF、となっています。現代のバグパイプでは、バスドローンにはチャンターキー音のオクターブ音が設定されるケースが圧倒的に多く、現代型の一般的なシェーファープファイフェやコルヌミューズもそうなっているので(例えば、チャンターがG管ならドローンもG)、F管チャンターに対してバスドローンが四度のBbという構造は、非常に興味深いです。

Praetorius_schaeferpfeife

(図の出典:Bärenreiter社刊 M. Praetorius "Syntagma Musicum II", 1619)

 話はそれますが、プレトリウスのヒュンメルヒェンも、C管と思われる音域構成(b~c'')のチャンターに対し、バスドローンが四度のF、バリトンがC、となっており、当時のシェーファープファイフェと同じ考え方でドローン音が配置されています。これは、当時のバグパイプの構造を知る上で、大変示唆に富んでいます。というのは、見方を変えて、あくまでもバスドローンの音がチャンターのキー音に一致していると考えれば、当時のシェーファープファイフェやヒュンメルヒェンのチャンターでは、現在一部の東欧系バグパイプに見られるように、キー音が右手人差し指の音孔に割り当てられていた可能性も排除できないからです。その場合、実はシェーファープファイフェのチャンターはBb管、ヒュンメルヒェンはF管、ということになり、それぞれのバスドローンの音がチャンターのキー音に一致することになります。ただ、これはあくまでも可能性の一つして推測出来るだけであり、確たる裏づけはないので、参考にとどめておきたいと思います。

 このように、現在のシェーファープファイフェは、昔の楽器が年月を経て発展してきたものではなく、一旦廃れてしまったものがコルヌミューズの構造を借りて生まれ変わり、現代のバグパイプファンの間で普及したものと考えられます。このため、厳密には現在のシェーファープファイフェはドイツの「伝統バグパイプ」ではないかもしれませんが、現在ではドイツ・オーストリアのバグパイプとして完全に市民権を得ており、既に多くの人が演奏を楽しんでいます。フランスの曲だけでなく、ドイツやオーストリアのトラッドはもちろん、音域がはまる限りジャンルを問わず色々な曲が演奏されているので、ヒュンメルヒェンのように汎用性の高いバグパイプであり、今後も多くのバグパイプ愛好家に親しまれていくことでしょう。

<今日の一枚>

 今回はこれ。チェコ・ストラコニツェの伝説上の人物「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」の像です。先日、ストラコニツェで行われたバグパイプフェスティバルに行った際、町の中心で見かけたものです。

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 2010年の同フェスティバルに行った際にはまだ無かったので、どうやらここ2年の間に建立されたようです。この「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」伝説は歌劇(ヤロミール・ヴァインベルガー作曲)にもなっており、色んなオケの演奏で上演されているそうです。ここでの「バグパイプ」とは、ドゥディ(ドイツ語ではボック)のこと。私のドゥディの師匠が一度歌劇に出演した際、ドゥディを放り投げるシーンで楽器を壊してしまった、というエピソードを持っています。ただ、この歌劇の上演では必ずしもドゥディを使うわけではなく、他の楽器で代用することが多いとのこと。上手なドゥディ奏者はチェコ(一部オーストリアや南部ドイツ)に集中しているので、その他の地域で奏者を見つけるのは難しいんでしょうね。

 もしチェコが19世紀イギリスのように世界の覇者となっていたら、ハイランドパイプスではなくドゥディが世界を席捲していたかもしれません。そうなると、歌劇上演の際にはドゥディ奏者を容易に見つけることが出来るでしょう。しかし、そのような世界では、パキスタンの山羊がバッグに使われて激減してしまうほか、

  • 毎年プラハ城でドゥディのミリタリー・タトゥーが開催される
  • ボヘミア各地では世界から集まったドゥディ・バンドがコンペティションで競い合う
  • チェコ系の米国海兵隊員が砂漠でドゥディを演奏するシーンがCNNで放映される

といった状況が出現するかもしれません。(しかしその音色ゆえにノホホン感がぬぐえないことが予想される。)

<現在取り組んでいるバグパイプ>

 今回から、今の仕事の現状についてご紹介していきます。最近はこんなことをやっています。

  • ブラックウッド製ふいご式A管スコティッシュ・スモールパイプス(リード調整を残すのみ!)
  • ヒュンメルヒェンC管及びアルトF管・キー付きチャンター(キーのフィッティングと調整)
  • ドゥダィD管キー付きチャンター(キーのポジション確定作業)
  • オープン運指のスコットランド音階プラクティスチャンター(音孔ポジション実験中)
  • オープン運指のC管ドゥダイ
  • A-minor仕様のガイタチャンター
  • ダブルチャンターヒュンメルヒェンD管…等

 成果については、折にふれて写真等を交えてご紹介していきたいと思います。

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