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2011年8月15日 (月)

ボック・ドゥディ ~ 民族楽器としての横顔・クラシック音楽との関係(バグパイプ博覧会レクチャーコンサートの要旨その1)

 8月6・7日に浜松市楽器博物館で開催されたバグパイプ博覧会に行って参りました。本ブログをお読み頂いている皆様の中には、ご来場された方も少なからずおられるかとも思いますが、とても素晴らしいイベントでした。私自身も、生で音を聞くのは初めてというバグパイプもあって勉強になりましたし、何より色々な方々とお知り合いになることができ、意見交換もさせて頂いて、本当に楽しく有意義な二日間でした。

 さて私は、博覧会の一環として6日夜に行われたレクチャーコンサートで、ボックとセックピーパの演奏とトークを担当させて頂いたのですが、その要旨を(一部加筆しながら)簡単にご紹介したいと思います。既にHPやブログでご紹介済みの内容もありますが、ご参考になれば幸いです。

 では、今回はボックについて。

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 この楽器は、ドイツ、オーストリア、チェコの三カ国にわたって使われている伝統バグパイプで、ドイツ語圏では、ベーミッシャー・ボック(Böhmischer Bock - 「ボヘミアの山羊」という意味)、チェコではドゥディ(Dudy)と呼ばれています。ちなみに、ドイツ語の名称は、この特定のバグパイプを指す語であるのに対し、チェコ語のドゥディは「バグパイプ」一般を指す語でもあり、上位概念的な語であるといえましょう。

 チャンターストックは通常ヤギの頭部を象った形状になっています。バッグには、山羊の毛皮のほか、犬の毛皮もよく使われます。このため、ボック・ドゥディ奏者の中には、道を歩く犬を見て、「いいドゥディになりそうだ」とのジョークを飛ばす人もいます。私は、山羊の毛皮を使うこともありますが、山羊皮は独特の獣臭があり、動物の毛にアレルギーがある方もおられるため、これを人工毛皮で代用することもあります。いずれの場合でも、私は毛皮の下に皮もしくはゴアテックス製のインナー・バッグを入れて製作しています。

 この楽器の伝統は、ドイツとオーストリアでは一旦完全に廃れてしまい、20世紀後半になって復元・復興されました。復興過程では、演奏の伝統が残っていたチェコの奏者から学ぶところが多かったそうです。しかしながら現在でも、ドイツやオーストリアにおける本楽器の知名度は高いとは言えず、一般のドイツ人・オーストリア人でこの楽器について知っている人は多くありません。一方チェコではドゥディの知名度は高く、特にバグパイプファンではないチェコ人も良く知っていますし、子供向けのテレビ番組や映画などにも登場します。また、チェコではバンド単位で演奏することも多く、演奏時には民族衣装を着ることが多いです。ドイツ・オーストリアでも民謡を中心に演奏しますが、オーストリアはお国柄なのか、室内楽的な使い方をするスタイルもあります。また、いずれの国でも、クラリネットやバイオリン等、他の楽器とのアンサンブルが盛んです。

 ところで、このボック・ドゥディ、見るからに土俗的なバグパイプですが、実は「クラシック音楽」とも深い仲にある楽器でもあります。

 例えば、W.A.モーツアルトの父、レオポルト・モーツアルトは、W.A.モーツアルトが生まれる前年の1755年頃に作曲した「Sinfonia in D, "Die Bauernhochzeit"(農民の結婚式)」という作品で、ボックを取り入れています。楽器編成は、オーボエ(I&II)、コルノ(I&II)、バイオリン、ハーディ・ガーディ、ボック、ビオラ、チェロ等のバスパートとなっています。以前本ブログでもご紹介しました、ビュルテンベルク候の宮廷ボック楽団員G.F.ヴァイスマンが作曲したPastorella in F for Polish/Bohemian Bagpipeでも、ボックが用いられています。

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(Doblinger Musikverlag社刊、L. Mozart 「Sinfonia in D」の楽譜。)

 また、ベートーベンの交響曲第六番「田園」では、バグパイプのドローンを模した効果が使われていますが、ベートーベンが単に従来のパストラルの形式を使っただけではなく、具体的にバグパイプをイメージしながらこの曲を書いたのであれば、それはボックタイプのバグパイプだった可能性が高いと考えられます。ボックはウィーン周辺も含めて、当時のオーストリアで一般的に使われていたバグパイプなのです。

 20世紀に入ってからは、チェコの作曲家ヤロミール・ヴァインベルガーが、ボヘミア伝説のドゥディ奏者シュヴァンダを題材にした、歌劇「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」を作曲しています。この歌劇は初演後に人気を博したものの、以降演奏される機会が減ったそうですが、近年になってまた上演回数が増えてきているようです(私のドゥディの師匠はこの歌劇に出演した際、ドゥディを放り投げるシーンで、楽器を壊してしまったそうです。)

 ところで、レクチャーコンサートでは、お客様にボックの伴奏でバイエルン民謡を一曲歌っていただきました。ボックは歌の伴奏に使われること多く、これを一緒に体験して頂いたわけです。バイエルンやオーストリアの民謡にもいくつかの形式があって(例えばアイリッシュにおけるジグやリール、ホーンパイプ、といった具合)、歌って頂いたのはZwiefach(ツヴィーファッハ)という、途中でリズムが変わる曲の一つでした。多くの民族音楽がそうであるように、ボック・ドゥディの音楽も、ダンスと密接な関係にあります。このあたりは、いずれまた詳しくご紹介したいと思います。

 次回は、製作して初めて気がついたセックピーパの意外な(?)魅力について、ご報告します。

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2011/08/15/6574

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