皮製ブローパイプバルブの作り方
バグパイプのワークショップなどに出かけますと、他の参加者からバグパイプの修理を頼まれることがよくあります。そこで結構多いのが、ブローパイプのバルブがしっかり閉じないので何とかしてほしい、という相談です。ある程度経験のあるパイパーの方々にとってブローパイプバルブの調整はさほど難しいことではありませんが、初心者の方は苦労することも多いようですので、今回は皮製バルブの作り方をご紹介します。
皮製のバルブは昔から使われているもので、私が初めてハイランドパイプスを買ったときには、まだ皮製バルブがついていました。しかし最近のハイランドパイプス用アクセサリーの多様化と充実ぶりには目をみはるものがあり、ブローパイプバルブもワンタッチで着脱できる便利なものが各種揃っています。このため、最近ハイランドパイプスを始めた人の中には、皮製バルブを見たことがない方もおられるかもしれません。また、ハイランドパイプス以外のバグパイプでは、ラバーキャップのバルブを採用している楽器も多く、そうした楽器を持っている人は皮製バルブを見て「こんなバルブがあったんですか?」と驚くこともあります。
昔ながらの皮製バルブは、時々オイルを塗ってやるというメンテナンスは必要ですが、簡単に作ることができ、演奏者自身で容易に予備を作って交換できるというメリットがあります。このため、私は自分の製品では通常皮製バルブを使っています。普段は最新式のバルブを使っているハイランドパイパーの方も、予備として皮製バルブを持っていれば、破損時など緊急時のつなぎに使えますので、作り方を知っておいて損はないと思います。
さて、作り方です。まず、皮の端切れを用意します(下写真左)。これは東急ハンズや皮革専門店で安価に手に入ります。厚さが1~1.5mm程度の柔らかいもの(ごく一般的な牛皮)がよいでしょう。私は、両面がスェード状に毛羽立っている皮と、片面が毛羽立っていて反対の面がつるっとしている皮の二種類をあわせて使いますが、一種類だけで作っても構いません。最初に、皮を丸くくりぬく道具を使って(写真下中)、最初の皮(二種類使う場合は、片面が滑らかなもの)を丸く切り出します(写真下右)。この道具はドイツ語ではLocheisen/ロッホアイゼンといいますが、日本語では「ハトメ抜き」というそうです。皮革工芸に使われる道具で、インターネットでも手に入ります。くりぬく円の直径は、ブローパイプストックの内径から2~3mm程度小さい直径のものがよいでしょう。私はブローパイプストックの内径を大抵18mmで作っていますので、この用途には直径15mmのものを使っています。
次に、もう一つの皮(二種類使う場合は、両面がスェード状のもの)に「ハトメ抜き」で型をつけます(写真下左)。このとき、ハトメ抜きをまわしながら皮に押し付けますが、完全にくりぬかず、丸い型がつく程度にとどめておきます(写真下中)。この丸い型におたまじゃくしの尻尾をつけるような形にして、はさみを使って切り取ります(写真下右)。
次に、最初にくりぬいた丸い型とおたまじゃくしの型を張り合わせます。この時、私は両方の型のスェード状の面同士を接着しますが、この場合は耐水性木工用ボンドを使います。もしも一種類しか皮を使わず、つるつるしている面を接着する場合は、二剤を混ぜ合わせるエポキシ系接着剤(この場合も耐水性であることを確認する)のほうがしっかりとくっつきます。接着後は写真下右のようになります。さらに、押し花の要領で、しばらく重しを載せておくと良いでしょう。このように張り合わせず、おたまじゃくしのほうだけでもバルブとして機能しますが、二重にすることによって型崩れを防ぐことができ、またバルブの重みも増すので、空気もれが起こりにくくなります。
次に、おたまじゃくしの尻尾の付け根に当たる部分に、カッターで少し切れ目の溝をいれてやります(写真下左)。この時、うっかり切り離してしまわないように注意します。切れ目を入れることにより、おたまじゃくしの頭の部分が自然に垂れ下がり(写真下右)、切れ目の部分が蝶番の役割を果たします。
いよいよブローパイプへの取り付けです。私の製品でもそうですが、ハイランドパイプスでも、取り付け部分は平たく削ってあります(写真下左)。この部分に耐水性木工ボンド、あるいは耐水性エポキシボンドを塗り(写真下中)、そこにおたまじゃくしの尻尾の部分を張り合わせます。この時、おたまじゃくしの頭の部分が、きちんとブローパイプの端を閉じるような位置にくるよう、気をつけます(写真下右)。
糸を巻いて取り付け完了です(写真下左)。写真下中は装着後のバルブを上から見たものです。最後にブローパイプの端を塞ぐほうのバルブの面に、オリーブオイルを塗ってやります(写真下右)。写真ではスポイトを使っていますが、指で塗っても構いません。オリーブオイルの塗布は、その後も時折行います。オイルを塗ることでこの面がきちんと密着し、逆流をしっかり防いでくれます。
最後に、これが大切なのですが、ブローパイプをストックに差し込むとき、蝶番部分が上にくるように差し込むようにします(写真下左)。これが下にくるように差し込んでしまうと、重力でバルブが開きっぱなしになり、空気が逆流してきます(写真下右)。初心者の方が空気の逆流に悩まされる大きな原因の一つが、この差し込み方の誤りによるものですので、注意しましょう。
上述の皮製バルブの作り方は、、ふいごのバルブにも応用できます。ふいご用のバルブは直径が大きく変形しやすいので、皮を二重にすることで変形を防ぎ、空気をもれにくくする効果が期待できます。私はふいご用には、さらに厚めの皮を使うことにしています。
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2011/05/08/4211
バグパイプ工房そのだ
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