カテゴリー「バグパイプ一般」の記事

2016年10月 4日 (火)

バグパイプを清潔に保つために

(お知らせ:日本語ホームページのアドレスが変わりました。新しいアドレスは次の通りです。http://bagpipesonoda.art.coocan.jp/

少し前になりますが、8月に英国の医学ジャーナルがインターネットに掲載した記事をご記憶の方も多いでしょう。肺疾患で亡くなった英国人男性パイパーの症例報告ですが、バグパイプ(ハイランドパイプス)内部で繁殖した雑菌・カビを吸入したことが疾患を悪化させた疑いがある、と指摘されています。さらにこの報告では、バグパイプに限らず、同様の疾患は他の管楽器奏者においても発生しうるとして、管楽器奏者に広く注意を促していました。

バグパイプ奏者に関していえば、このような症例が報告されたのは世界初だそうで(他の管楽器奏者では過去に似た症例があったとのこと)、現在世界に何十万といるであろうバグパイプ奏者の殆どが元気にバグパイプを演奏している現状を考えれば、極めて稀なケースなのでしょうが、こうした症例が報告されたことを踏まえ、楽器を清潔に保つことの重要性を改めて認識しておくのは有意義なことと思われます。

そこで今回は、主に衛生面に焦点を当て、口吹き式バグパイプを清潔に保つために出来ることを、いくつかご紹介いたします。経験豊富なパイパーの方、或いは他の管楽器を演奏される方がご覧になれば、全て当たり前のことかもしれませんが、初めての管楽器がバグパイプで、且つ独学で習得に励む方の場合、どうしても基本的なメンテナンスについて学ぶ機会が限られてくるので、特にそうした方々にご参考にして頂ければ幸いです。

<歯磨き>

状況が許せば、練習・演奏の前に歯磨きをすることをお勧めします。

 

<演奏後の保管>

演奏後は、ブローパイプ、チャンター、ドローンをバッグから取り外しておきます。特にブローパイプは湿気を多く含んでいるので、必ず外しましょう。この際、ジョイント部分(糸・ヘンプを巻いてある部分)と、ストック内側の湿り気をふき取ります。また、バッグ内の湿った空気は、できるだけ出しておきます。楽器は高音多湿の場所をさけて保管します。

 

<マウスピース>

プラスティックのマウスピース部分は、演奏後に管楽器用のマウスピースクリーナーで消毒します。マウスピース内部は、綿棒を使って汚れを拭き取ると良いでしょう。

 

<ブローパイプ・逆流防止バルブ>

マウスピースから下へ続くブローパイプ木管部分は、管楽器用の清掃棒(スワブ)が差し込めるのなら、それで内部をきれいにします。内径が狭くて差し込めるスワブが見つからない場合、下から綿棒などで水滴をぬぐい、できるだけ湿気が残らないようにします。演奏後、逆流防止のバルブには水滴が多くついていたり、湿っていたりするので、これをふき取ります。革製バルブの場合は、時折オリーブオイルを塗ってやります。

 

<リードキャップ>

リードキャップを装着して、チャンターやドローンを保管する場合には、チャンター・ドローンのジョイント部分の湿り気を予めふき取り、リードキャップの汚れやカビの有無をチェックしましょう。プラスティック製のリードキャップなら、マウスピースクリーナーが使えます。木製キャップの場合には、適宜汚れをふき取り、時折オリーブオイル・アーモンドオイルを塗る等のメンテナンスをしましょう。

 

<バッグ>

まず上記の通り、演奏後はバッグからブローパイプ、チャンター、ドローン管を外し、通気性をよくした上で保管します。バッグ自体のメンテナンスは、以下のようにバッグのタイプによって異なります。

 

1)革バッグの場合

シーズニングで気密性を持たせている革バッグは、定期的にシーズニング処理をします。これは、気密性維持に加え、新しいシーズニングを入れることが内部の清掃を兼ねるため、適宜行うことをお勧めします。

一方、当工房では、シーズニングフリーの革バッグも製作しております。このタイプの革バッグでは、シーズニングを入れないため、内部を乾燥した状態に保ちやすいですが、今回上記のような症例報告がなされたのを受け、シーズニングフリー・バッグの内部を手入れするための清掃棒を作ってみました(写真)。

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ご覧の通り、丸棒の先にガーゼや布を取り付けただけのものなので、自分で簡単に製作できます。ストックからバッグの中に差し込んで、内部の湿気や汚れをふき取るために使います。棒のサイズは、直径810ミリ、長さ4045センチ程度がお勧めです。私も自分のハイランドパイプスのシンセティックバッグで試してみましたが、この長さがあれば内部全体を拭くことができます。もちろん長いほうが奥まで届きやすいのですが、長すぎると楽器ケースに入らなかったり、力の加減が難しいという難点があるので、せいぜい50センチ程度までが使いやすいと思います。また、バッグの内部を傷つけないように、紙やすりなどで棒の先端部分の角を取り、丸くしておきましょう。さらに、棒の表面全体に紙やすりをかけ(120番・240番の仕上げで十分です)、その後オリーブオイルなどを塗って乾かしてから使用すれば、棒の保護になります。私は持ちやすいように太目のグリップを作りましたが、これは必ずしも必要ではありません。棒の根元に、バットやラケットのグリップ用テープを巻けばことが足ります。

なお、革バッグでは(シーズニング有・無どちらの場合でも)、演奏後バッグの内部にハッカ油を1~2滴垂らしておくと、ある程度の抗カビ効果が期待できます。但し、演奏中は、ブローパイプを通じて僅かに逆流してくる空気の中にハッカ成分が混じり、これを吸入することがあるので、呼吸器に疾患・アレルギー・過敏性のある方は行わないで下さい。ハッカ油滴下後しばらくは演奏に際して口元にハッカの清涼感が感じられますが、これは人により好き嫌いがありますから、これが気になる方にはお勧めできません。いずれにせよ、自分に合わないと感じたら、使用を避けましょう。また、ハッカ油は短時間で揮発するため、効果は長く持続しません。このため、ハッカ油を使った場合でもこれに頼り切らず、上述の各種メンテナンスはしっかり行いましょう。

 

2)シンセティックバッグ (人工素材バッグ)の場合

シンセティックバッグの某メーカーに確認したところ、伝統的な革バッグに比べるとシンセティックバッグは雑菌が繁殖しにくいので、あまり心配はいらない、とのことです。しかし、気になる場合には、ジッパー付きのバッグなら時折ジッパーを開いて内部を拭くことができますし、ジッパーが無い場合でも上記の清掃棒での手入れが可能です。

以下は、あくまでも参考ですが、どうしても内部を丸洗いしたい場合、上記メーカーから「哺乳瓶の消毒に使うミルトン洗浄液をぬるま湯程度に温め、バッグに注ぎ入れて消毒した後、冷水でこれをよく洗い流し、その後しっかり乾燥させる」という方法をご提案頂きました。但し、ミルトン消毒液は、一部のプラスティックや金属に対して腐食性があるとされますし、基本的に木管の内部を多くの水にさらすことは避けたほうが良いことから、この方法はストックを取り外したうえで行うことが望ましいです。しかし何度もストックを取り外して付け直すと、取り付け部分が弱ってくるので、この方法はどうしても必要と思われる場合にのみ(例えば、汚れがひどいが、新しいバッグを注文して入手する前に演奏の仕事が入ってしまった、など)、あくまでも緊急避難的な手段に留めておくのがよいでしょう。

 

革・人工素材いずれの場合でも、基本的にバッグは消耗品です。空気もれが改善しないといった状況の他、内部の汚れがひどい、変な臭いがし始めた、と感じたら、バッグの交換を考えましょう。また、インターネットオークション等で中古の口吹きバグパイプを購入した場合には、マウスピースやブローパイプをよく手入れした上、バッグの状態もよくチェックしましょう。当工房では、こちらで製作したバグパイプはもとより、他の職人さんが製作したバグパイプについてもバッグ交換サービスを承っておりますので、ご自身で交換が難しい場合にはご相談下さい。

丁寧にお手入れした清潔なバグパイプで演奏を楽しみましょう!

 

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2016/10/04/42971 バグパイプ工房 そのだ

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2014年11月30日 (日)

シーズニングによる革バッグのメンテナンス

(1年以上ブログを放置していたことについては何卒ご容赦を...)

ハイランドパイプス奏者の皆さんなら、バグパイプのバッグを気密に保つためのシーズニング処理についてよくご存知のことでしょう。先輩パイパーの方々からやりかたを教わった方も多いことと思います。一方で、演奏人口の少ない、他のバグパイプを独習で学んでおられる方からは、シーズニング処理についてご質問を頂くことも少なくありません。そこで今回は、シーズニングとその方法についてご紹介いたします。

「シーズニング」というのは、あえて日本語で言うと、「バッグを気密に保つためにその内部に使用する目止め剤」ということになります。革製のバッグの場合、微細な毛穴や縫い目などから空気が漏れてしまうので、これを塞ぐために使用するものです。常温ではゲル状のものが多いですが、粘度の高い液状の場合もあります。自分で調合しているメーカーさんもおられますし、自作用のレシピなどもインターネット上で紹介されていますが、既製品をバグパイプ関連のオンラインショップで簡単に入手することができます。日本でもバグパイプ関連商品を取り扱っている業者さんがいくつかありますので、国内での調達も可能でしょう。なお、ハイランドパイプス用に売られているこれらのシーズニングは、その他のバグパイプにも概ね使用可能です。ただし、革のタイプによる相性もあるので、お持ちのバグパイプを製作した職人さんに事前にご相談して下さい。私の製品については、ハイランドパイプス用のシーズニングをご使用頂けます(但し、革バッグのみです。ゴアテックスバッグには使用しないで下さい。)

以下、スコットランドの某バグパイプメーカーが販売しているシーズニング(ハイランドパイパーの間では有名なブランド)を使ったバッグのシーズニング処理です。なお、この処理を
行う際には、汚れても良いような服装をお勧めします。また、作業は、できれば屋外か風呂場、あるいは板張りの部屋で行うことをお勧めします。
じゅうたんや畳の部屋で行うと、栓が外れてシーズニングが飛び散った場合の後始末が大変です。

まず、このシーズニングは常温では固まっているので、これを過熱して液状にします。この製品は、最近はプラスティック容器に入っており、電子レンジで過熱するようになっています(使用説明にもそう書いてあります)。昔は容器が金属の缶で、熱いお湯につけて温めていたので、私はその習慣で、今も湯せんで温めています。温める際、中の空気が熱で膨張するので、キャップを緩めて空気が抜けるようにしておきます。中身が温まってどろどろの液状になったら、割り箸などでこれをよくかき混ぜ、固形部分が残らないようにします。

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シーズニングが温まるまでの間に、バッグからチャンター・ドローン・ブローパイプを外し、ブローパイプストックを除く各ストックに栓をします。ちょうどよい大きさのコルク栓があれば理想的です。無ければキッチンペーパーを硬く丸めて代用できますが、いずれにしても、しっかりと栓がされていることを十分確認してくださいバッグカバーがついている場合は、必ず外しましょう。シーズニングが飛び散るとシミになって、なかなか落ちないからです。

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じょうごをブローパイプに差込み、まだ温かい状態のシーズニングを注ぎいれます。どのくらい注ぐかは、バグパイプの種類やバッグの大きさにより異なります。使用説明によれば、ハイランドパイプスの場合、新しいバッグなら中身の半分、その後のメンテナンスでは四分の一、と書いてあります。この際、どぼどぼと一度に沢山注ぐのではなく、少しずつ注意深く注ぎましょう。一度に大量に注ぐと、ストック内部を通ったシーズニングがバッグ内部にいきわたる前にストックからあふれ出し、バッグ表面を汚してしまうことがあるからです。

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注ぐ際は、出来れば各ストックを上に向けた状態で行うのがよいと思います。ストックの数が多いと一人では難しいので、手伝ってもらえる人がいれば、サポートを頼むとよいでしょう。これは、ブローパイプストックから注ぎ込んだシーズニングが別のストックに流れ込んでしまい、革部分に行き渡る量が少なくなるのを防ぐのと、後でストック内部の掃除をするのを楽にするためです。

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必要な分量のシーズニングを注ぎ終わったら、注ぎ口のブローパイプストックにも栓をします。この際、バッグ内の空気は出来るだけ抜いて、バッグをぺったんこの状態にしておきます

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次に、手でバッグをよく揉み、中に入れたシーズニングが内部に満遍なく行き渡るようにします。

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バッグを手で揉む際には、特に縫い目やストックの付け根にも、十分シーズニングが行き渡るように注意します。

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バッグの内部にシーズニングが十分に行き渡ったら、ブローパイプストックにはめていた栓を外し、そこにブローパイプを差し込んで、空気を吹き込みます。パンパンに膨らんだら、しばらく放置します。バッグをパンパンにすることで、革の内部にシーズニングが滲みこみ、後でこれがゲル化して微細な孔を塞ぐ目止めの役割をします。なお、バッグを膨らませた際、縫い目や毛穴からシーズニングが滲み出してくることがあります。これはある程度までなら許容範囲です。これは随時ふき取りましょう。パンパンにしたバッグも、しばらくするとしぼんでくることもありますが(栓の隙間や差し込んだブローパイプから空気が少しずつ抜けたりもします)、少しずつしぼんでいく程度なら問題ありません。しかし、シーズニングが染み出す量が著しく多く、すぐにバッグの空気が大量に抜けてしまうようなら、バッグそのものに何かしらの問題があることを疑う必要があります(毛穴等に比べ著しく大きな孔や裂け目がある、縫い目が大きすぎる、縫い目がほどけている、ストックがしっかり装着されていない、等)。こうした場合、問題の箇所からシーズニングが勢いよく噴出てくるので、修理すべき部位を特定できます。あるいは、バッグ表面全体からジワっと大量のシーズニングが染み出してきて、すぐにバッグの空気が抜けてしまうのなら、バッグの交換を検討しましょう。

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パンパンにしてしばらく放置してから、ころあいを見計らって、ストックの栓を外します。この頃になると、バッグはある程度しぼんで中の空気圧も低くなっていますが、栓を外す際にはゆっくりと注意深く行います。そうしないと、内部の圧力によってシーズニングが噴出することがあります。ここで、割り箸などに布切れを巻きつけたもので、ストック内部に付着したシーズニングをふき取っておきます。この作業は、シーズニングが完全に固まる前のほうが楽に出来ます。その後、チャンターストック以外のストックに、もう一度キッチンペーパーなどで軽く栓をしておきます。これは、吊り下げて干している間に、中のシーズニングがそこから流れ出し、バッグの表面に滴り落ちて汚してしまうのを防ぐためです。そして、チャンターストックを下に向けてバッグを吊るし、中のシーズニングを流しだします。下に受け皿になるものを置いておくとよいでしょう。流しだしたシーズニングは再利用しません。捨てましょう。

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あとは、数時間バッグをぶら下げておき、もう一度ストック内部の掃除をします。特にチャンターストック内部にはゲル化したシーズニングが多く付着しているので、これを丁寧に拭い取ります。その他のストックの内部も、もう一度確認しましょう。

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なお、今回使用したシーズニングは、ハイランドパイパーの間での定番商品ですが、つい先日、この商品をハイランドパイプスの新品バッグに使用したドイツ人の知人から、「処理後数時間で機密性が損なわれた。品質にむらがあるのかも。他にもそう言っている人がいた。」という話を聞きました。この意見は、一応ご参考までに紹介したのですが、私自身はこの商品を使っていて品質に問題があると感じた経験はありません。また、彼の場合、バッグそのものに何らかの問題があった可能性も否定できません。もちろん、他のメーカーの商品も出ているので、色々なメ種類を試してみるのも良いと思います。

また、シーズニング処理の頻度ですが、これは使用している楽器や使用状況によりまちまちです。基本的には、以前に比べて空気漏れが気になってきた、という場合に行えばいいと思います。ハイランドパイパーの方の中には、定期的に行ったほうがよい、と仰る方もおられます。特にハイランドパイプスはバッグにかかる負担が著しく大きいこともあるのでしょうが、もちろん、転ばぬ先の杖、という意味では、他のパイプスでも定期的に(例えば年一回)行っても構いません。最低限必要か、という意味では、楽器を定期的に使用し、またこれが清潔に保たれている限りでは、実際に機密性の低下が問題になり始めたり、革がごわごわしだしたかなと感じた時に行えばよいと思います。

材料となる革自体が十分気密(毛穴などからの漏れが無い)で耐水性に優れた処理がなされているものなら、縫製時に予め縫い目の目止めをしておくことで、革バッグでもシーズニングフリーにすることが出来ます。実際、私の製作している革バッグの何割かは、シーズニングフリーです。ただ、革は天然由来の材料のため、常にそういう状態のものが手に入るわけではありません(一応、買い付けの際、手触りである程度判断してから仕入れていますが)。当工房のバグパイプでは、必要な場合には、お客様へ出荷する際にこちらで予めシーズニング処理を行っていますので、そのままで演奏に問題がなければ、緊急にシーズニング処理をして頂く必要はありません。但し、演奏した後にバッグから湿った空気を出し、ストック内部についた水分をふき取る等、バッグを清潔に保つお手入れは欠かさないようにしてください。

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2013年9月 2日 (月)

世界のバグパイプのリスト!(追記)

 昨日のブログ記事で公開したリストですが、ブログ画面上で表示される際、文字のフォーマットが不統一になるなど、見づらい部分がありましたので、PDFとしてご覧頂けるようにいたしました。(こちらをクリック)。

2013年9月 1日 (日)

世界のバグパイプのリスト!

 皆様、またまた長らくご無沙汰してしましました。ブログを三ヶ月以上放置していました・・・。  

 さて、まずはご案内から。ミュンヘンで知合いになった明治大学の先生からご依頼を頂き、10月5日(土)に、同大学リバティアカデミーにて、バグパイプ関係の講演をさせて頂くことになりました。一般の方もご来場頂けますので、ご興味のある方は、是非お越し下さい。いくつか種類の違うバグパイプの音色を聴いて頂くために、少しですが演奏もさせて頂く予定です。講演並びにお申し込みの詳細は、こちらのサイトをご覧下さい。  

https://academy.meiji.jp/course/detail/1343/

 この講演では、色々な側面からバグパイプという楽器についてお話をさせて頂きたいと考えておりますが、その中でバグパイプの種類の多様性についても触れる予定です。このため、各国のバグパイプ名称一覧というものを作ってみました。リストの内容については、当日の講演でもう少しご説明いたしますが(例えばBrian Boru Irish Warpipesを、なぜイングランドの楽器として分類しているのか?バグパイプではないのにバグパイプとして扱われているものはどれ?等)、その種類の豊富さを多くの皆様に知って頂くため、先立って以下のごとくご紹介いたします。

国・地方

バグパイプ

一般名称

バグパイプ

個別名称(正式名称・通称・便宜的名称を含む。

一般名称を兼ねる場合もある。)

スコットランド

Bagpipe(s)

Scottish Great Highland Bagpipes

Scottish Small Pipes

Border Pipes / Lowland Pipes / Reel Pipes

Pastoral Pipes

イングランド

Bagpipe(s)

Northumbrian Small Pipes

English Greatpipes

Cornish Bagpipes

Brian Boru Irish Warpipes

Yorkshire Bagpipes

Lancashire Bagpipes

ウェールズ

Bagpipe(s)

Welsh Pipes

アイルランド

Bagpipe(s)

Uillean Pipes / Union Pipes

Irish Warpipes

スペイン

Gaita

Cornamusa

Gaita Galega

Gaita Asturiana

Gaita Alistana

Gaita Sanabresa

Gaita de Boto

Gaita de Saco

Gaita Llionesa

Xeremia

Sac de Gemexes

Ordecillo

ポルトガル

Gaita

Cornamusa

Gaita Mirandesa / Gaita transmontana

フランス

Musette

Musette de cour / Baroque Musette

Musette Bressane

Musette Bechonnet

Cornemuse

Cornemuse du Centre

Chabrette

Cabrette

Caramusa

Bodega

Boha

Bousine

Loure

Pipasso / Muchosa

Samponha

Sourdeline

Veuz

Vèze 

Binioú Kozh / Binioú Bihan

Binioú bras

イタリア

Zampogna

Zampogna

Piva

Müsa

Baghèt

Chekra

Ciaramella / Ciaramedda

Surdullina

Surdelina

サルジニア

Launeddas

マルタ

Zampogna

Zaqq

Qrajna

ベルギー

Pipsak

Muchosa / Muzosak

Doedelzak

Doedelzak

オランダ

Doedelzak

Doedelzak

ドイツ

Sackpfeife

Dudelsack

(本来はSackpfeifeが上位概念)

Hümmelchen

Schäferpfeife

Magdeburger

Marktsackpfeife

Dudey / Dreiblühmchen

Bock (Praetorius Bock)

Großer Bock (Praetorius Great Bock)

Kozoł

Méchawa

Méchawka

Böhmischer Bock

Egerländer Bock

オーストリア

Sackpfeife Dudelsack

Hümmelchen

Schäferpfeife

Böhmischer Bock

Egerländer Bock

スイス

Sackpfeife Dudelsack

Sackpfiffe

Piva

フィンランド

Säkkipilli

Säkkipilli

Pilai

Walpipe

ノルウェー

Sekkepipe

スウェーデン

Säckpipa

Säckpipa

デンマーク

Sækkepibe

ロシア

Volynka

Shjuvor (マリ共和国)

Shapar(チュヴァシ共和国)

Puvama(モルドヴィア共和国)

アゼルバイジャン

Tulum-Zurna

グルジア

Gudastviri / Chiboni / Stvri

Zunnifis

アルメニア

Parkapzuk

ウクライナ

Duda

エストニア

Torupill

Torupill

ラトヴィア

Dudas

リトアニア

Dudmais

ベラルーシ

Duda

Mutsianka

チェコ

Dudy

Dudy

Moldanky

ポーランド

Dudy

Dudy wielkopolskie

Kozioł biały

Kozioł czarny

Sierszeńki

スロバキア

Gaijdy

ハンガリー

Duda

スロベニア

Dude

ルーマニア

Cimpoi

ギリシャ

Askavlos

Askomandoura

Tsampouna / Tsambouna

Gaida

Touloum

Angion

マケドニア

Gaida

クロアチア

Gajde

ブルガリア

Gayda

Kaba Gayda

Jura Gayda

エジプト

Zummarah-bi-soan

リビア

Zurka

チュニジア

Mizwad

アルジェリア

Ghaita

Tadghita

トルコ

Tulum / Guda

Dankiyo

Gaida

Karkm

イラン

Ney Anban

インド

Mashak

Titti

Sruti upanga

(おまけ)パキスタン

Paki-Pipes (??)

<参考資料>

"Der Dudelsack in Europa - mit besonderer Berücksichtigung Bayerns", Bayerischer Landesverein für Heimatpflege, 1996

"Der Sorbische Dudelsack", Josef Režný, 1993

"Museo Internacional de Cornamusas", Escola Provincial de Gaitas, 2003

"Schule für den Böhmischen Bock", Rudolf Lughofer, 1998

"Os Segredos da Gaita", Xose Lois Foxo, 6th Edit., 2004

CD "Sackpfeifen in Schwaben 2000", Haus der Volkskunst, 2000

CD " Global Bagpipes" ARC Music Productions Int. Ltd., 2002

http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_bagpipes

 なお、本リストは上記参考資料を基に、私自身の記憶も総動員して作成したものですが、特にフランス、旧ソビエト、バルカン地方、アフリカ・中近東のバグパイプについては私も知らないことが多く、誤りや不備な点があるかもしれません。もしも訂正すべき点等ありましたら、ご指摘下さい。  

 また、リストではメジャーなバグパイプはほぼ網羅したつもりですが、これら以外にも多くのバグパイプが存在している可能性があります点も、あらかじめご了承下さい。便宜的に国ごとの分類を採用しておりますが、バグパイプは人為的に引かれた国境線とは関係なく発展してきましたので、同種のバグパイプが二つ以上の国にまたがって異なる名称で使用されている例もあります。

<ご協力のお願い>

上述の講演の際、ご来場の皆様に、日本国内のバグパイプ演奏者・団体・バンドのリストを作成し、配布しようと考えております。これからバグパイプを始めようとお考えになっている方、バグパイプの演奏を聴いてみたい方に、参考にしていただこうと言うのが目的です。既に私が個人的に存じ上げている方々には、個別にメールで依頼をさせて頂き、ハイランドパイプス奏者の皆様を中心にフィードバックを頂いたのですが、もしブログをご覧の皆様の中で、バグパイプの演奏パフォーマンスや指導をされておられ(できれば中級以上)、上記目的にご賛同頂ける方がいらっしゃいましたら、当方まで以下の内容をご連絡頂ければ幸いです。(送信先:bagpipesonoda@mbr.nifty.com)

1.お名前(又はバンド・演奏団体名)

2.演奏しているバグパイプの種類

3.活動拠点(都道府県のみで結構です)

4.連絡先(公開しても支障がない範囲でのメルアド・ホームページアドレス等)

5.ワンポイント・メッセージ(演奏する音楽のタイプや志向、アピール等を、100字以内でお願い致します)

バグパイプの種類は問いませんが、特に、演奏人口の少ないバグパイプを演奏されている方や、生演奏に触れる機会が限られてくる首都圏外でご活躍されておられる方、大歓迎です。宜しくお願い致します。

<今日の一枚>

 少しずつ古い楽器の修理の仕事も増えてまいりました。これは、20世紀半ばの製作と思われるボックのチャンター製作を依頼された時のものです。チャンターとそのリードを新しくしたほか、ドローンリードも新しいチャンターにあわせて調整しなおしました。先輩職人の方が製作された楽器に触れ、それを修理調整させて頂き、また楽器として機能する状態にする仕事を頂けるのは、大変光栄に思います。

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<現在開発中のバグパイプ>

ボーダーパイプス(もうすぐ納品・・・の予定。)

C管シェーファープファイフェ

高音域Bb管ボックチャンター

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2013/09/01/24329 バグパイプ工房 そのだ

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2013年5月21日 (火)

ユーロビジョン・ソングコンテスト 今年は二カ国がバグパイプを使用!

 皆様、すっかりご無沙汰してしまいました(前回のブログ記事に「明けましておめでとうございます」と書いてありました…)。前回も言い訳をしてしまいましたが、ここのところ特注製品のご注文を承ることが多く、試作に時間がかかるため、「ブログよりは納期・・・」という状態が続いており、大変失礼致しました。ブログ用に温めているネタはかなりありますし、長らく試作に取り組んでいたドゥダイが最近完成したので、現在お待ち頂いているお客様にご迷惑がかからない程度に、ブログ執筆も少しずつ再開していきたいと思います。

 さて、毎年この時期には、ヨーロッパ各国対抗歌合戦ともいうべきユーロビジョン・ソングコンテストが行われます。2年前にもこれに関する記事を書きましたが、しばしば色々なバグパイプが登場するので、見逃せないイベントなのです。残念ながら昨年は、ルーマニア代表がハリボテのバグパイプ(音なし)を持って登場しただけだったのですが、今年は二カ国の代表が、バグパイプを取り入れた曲でコンテストに臨みました。

 まずはブルガリア。今年出場した代表は、2007年にも出場したElitsa & Stoyanというグループです。2007年登場の際も、ブルガリアン・ボイスのボーカルが印象的だったので、このデュオについては一昨年のブログ記事でも触れました。今回はなんとバグパイプ付。普通のポップスを英語で歌うという無難な路線の国が多い中、強烈に土俗的な曲を歌ってくれるのは実に貴重です。映像はこちら(YouTubeのEurovisionアカウントより)→ http://www.youtube.com/watch?v=bExp3aNOFsE

 バルカン半島のバグパイプにはあまり詳しくないのですが、使われているバグパイプは、多分ジュラ・ガイダという、ブルガリアの小型バグパイプのように思います。ちなみにこのバグパイプ、日本にもすごい腕前の人がいらっしゃいますから、聴いたことがある方もおられるかもしれません。 

 もう一カ国はスペイン。スペインは2年前にガリシア出身のLucia Perezがちょこっとガイタ・ガレガの音を入れた曲を使いましたが、今年はガリシア州のお隣、アストゥリアス州のバンドEl Sueno de Morfeoが、イントロでいきなりガイタを使っています。動画はこちら(YouTubeのEurovisionアカウントより)→ http://www.youtube.com/watch?v=fIPXPFNbdzs

 バンドがアストゥリアス州出身ですし、楽器の形状や運指からも、使われているバグパイプは恐らくガイタ・アストゥリアナと思います(一行広告:ガイタ・アストゥリアナ、作ってみようと思っているので、欲しい人は注文してくださいね!)。

 さて、気になるコンテストの結果ですが、なんとブルガリアは予選落ち。スペインは大国なので、予選を免除されていきなり本選から参加できるのですが、本選参加26カ国中25位。スペインのほうは、本番でボーカルのおねえさんが随分緊張してしまったようで、音も外れていたし声もあまり出ていなかったので、まあ仕方がないのかもしれませんが。バグパイプファンとしては何とも残念な結果でした。なお、今年の優勝はデンマークです。(ちなみに最下位の26位はアイルランド・・・)。

 ただ、ユーロビジョンの審査方法については、その公正さに疑問を呈する声もあり、また英仏独伊西の五大国が予選を免除される点にも批判があります。今年は、これまで毎年参加して好成績を収めていたトルコが、こうしたシステムに異議を唱えてボイコットするという事件もありました。まあ、過去の例を見ても、歌唱力や曲の完成度が順位に反映されているわけではないので、私は結果はあまり気にせず、色々な国のミュージシャンのパフォーマンスを楽しむようにしています。

<今日の一本>

 これは納品前テストの一環として録った動画なのですが、ドゥダイでスコティッシュ・スローエアを吹いてみました(注:すごく地味な演奏です・・・)。なかなか繊細な楽器で、空気圧を調整して音程を保つのが難しいのですが、チャンターとドローンの音がピタリと重なった時はセックピーパのようで、とても気持ちいいです。ちなみに、運指がスコティッシュとは違うので、それ相応にアレンジしてあります。

http://www.youtube.com/all_comments?v=fSxQJQnEIVc

<現在開発中のバグパイプ>

  • A-minor仕様のガイタチャンター....(Sさん、お待たせしてごめんなさい。今やってます・・・・)
  • ボーダーパイプス...(Hさん、お待たせしてごめんなさい。これも今やってます・・・・。)
  • C管ガイタガレガに装着して使用可能なプラクティスチャンター
  • 高音域Bb管ボックチャンター

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2013/01/20/22799

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2013年1月20日 (日)

ブローパイプバルブの素材・プラスティックドローンリードの舌の交換

 皆様、大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 前回ブログを更新したのが昨年の10月初旬ですから、三ヶ月以上ブログをほったらかしにしておりました。実はこの間、試作的要素の多いご注文への対応や、2008年から毎年行っているバグパイプ製作コースの準備等で多忙を極め、時間的にも精神的にもブログに向き合う余裕が全くなく、随分とご無沙汰してしまいました。大変失礼致しました。

 ブログをサボっていた言い訳はこれくらいに致しまして、まずは前回記事のブローパイプバルブに関する記事のフォローアップから。前回の記事で、ゴム製バルブの作り方として、バルブが反ってしまうのを防ぐためにゴムを二重にすることをご紹介しました。その際、シリコンを使えばいいかも、と言及しましたが、その後、オーブンでクッキーなどを焼く時に敷くシリコンマットを入手。これをバルブに使ってみたところ、なかなか使い心地がよいことがわかりました。厚さは1mm程度のもので、こちらでは4ユーロで買いましたが、日本でも1000円くらいで手に入るそうです。バルブの作り方はゴムの時と同じで、二重にしなくてもよいですから、より簡単です。一つ買えば、一生バルブに困らないくらいの大きさがあります。

 では、本日の本題にはいりましょう。プラスティック・ドローンリードが壊れてしまった場合の交換方法について、ご紹介します。時折、ドローンリードの舌をうっかり曲げてしまった、というご相談を頂きますが、そうした場合には以下の方法で補修できます。もっとも、これは私が最近作っているプラスティックドローンリードに対応して説明させて頂いておりますので、他のメーカーさんの楽器をお持ちの方は、多少のアレンジ・工夫をして頂く必要があるかもしれません。あるいは、リードの形状によっては以下の方法では対応できない場合もあります。リードの構造や設計は各メーカーさんによって異なりますので、その点は何卒ご了承下さい。

 さて、一般的なプラスティック・ドローンリードは、プラスティックあるいはその他の素材で出来た鞘の部分に、薄いプラスティックの切片で出来た「舌」を取り付けた構造になっています。舌の部分が折れ曲がったりして壊れても、この鞘の部分は使えますので、鞘は捨てないで下さい(私の製品の場合、この鞘がドローンリードの値段の大部分を占めています!)。

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(写真1:当工房のプラスティックリードの鞘。鞘の部分は、プラスティックのほか、アフリカンブラックウッドや黄楊等の硬木の端材で作っています。)

 「舌」の部分の素材として一般的なのが、ポリスティロール(PS)です。チャンターリードもドローンリードも、舌の部分はこの素材で作られることが多いです。このポリスティロールは、模型専門店などで色々な厚さのものを売っています。一方、既にご存知の方も多いかと思いますが、ポリスティロールは食品容器の素材として広く利用されているので、ヨーグルトやアイスクリームなどの容器を切ったものでも十分使用できます。私はスーパーでアイスクリームなどを買う場合、多少味が劣っても、ついついポリスティロール容器に入っているものを選んでしまいます。

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(写真2:ポリスティロールの食品容器)

 こうした容器の、平らでまっすぐな面を短冊状に切り出します。多くの場合、一つの容器から、色々な厚みの短冊をとることができます。私はバグパイプの種類やドローンの音程に応じて、0.3mmから0.5mm程度の厚さのものを使い分けています。もとのプラスティック舌の幅と厚さを測っておき、同じサイズのものを切って使うとよいでしょう。

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(写真3:切り出したポリスティロールの切片)

 切り出した短冊状のプラスティックを、適切な長さに切り、これを鞘の部分にテープで仮どめします。これは次の段階で舌を固定する際、ずれないようにするためです。

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(写真4:ポリスティロールの切片をテープで仮止め)

 次に、プラスティックの舌を固定します。昔のモデルではテフロンテープで巻いて固定していましたが、最近はゴムチューブを使って固定するようにしています。ゴムチューブは東急ハンズで安く手に入ります。

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(写真5:ゴムチューブを適切な長さに切断)

 短く切ったゴムチューブをかぶせて、舌を鞘に固定します。これは、ゴムチューブでなくても、テフロンテープやビニールテープで固定しても構いません。このとき、舌がゴムチューブからはみ出している部分の長さ、即ち舌が振動する部分の長さは、音程を決める上で重要です。ですから、壊れたリードの舌を交換する前に、振動部分の長さを測って書き留めておくことをお勧めします。

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(写真6:ゴムチューブをかぶせてプラスティックの舌を固定)

 取り付けた舌が空気の流れによって振動するためには、舌と鞘の間に僅かな隙間があることが必要です。舌と鞘の間に根元までカッターの刃を差込み、刃をクイッと上に傾けて舌に折り目をつけると、舌と鞘の間に隙間ができます。このとき、親指で舌の根元をしっかり押さえて、根元の部分にきちんと折り目ができるようにします。カッターの刃で指を切らないように注意しましょう。

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(写真7:舌の部分を折り曲げる)

 この折り曲げが大きすぎると、隙間が大きくなりすぎて、舌を振動させるのに大変な量の空気が必要になったり、あるいは舌が開きっぱなしになって空気だけが抜け、音が出ないといったことになります。一方、折り曲げが小さすぎると、すぐにリードが閉じて音が止まってしまいます。ただ、適切な開き具合は、楽器や演奏者のクセによって異なってきますから、この部分は個人個人で試行錯誤が必要です。

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(写真8:適切な開き具合に折り曲げた舌)

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(写真9:先端方向から見た場合)

 この段階でドローンに差し込んでみて、きちんとした高さの音がでるなら、これで完成です。しかし、音は出るけど低すぎる、又は高すぎる場合、これを調整しなければなりません。もし音が低すぎる場合、舌の先端を少し切り詰めて短くしてやります。

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(写真10:舌の先端をカット。鞘を傷つけないよう、舌と鞘の間にボール紙をはさむ。無理やり切ろうとすると、刃が滑って指を切るので注意しましょう。)

 音が高すぎる場合、舌をもう少し長いものに交換するか、やや開き具合を大きくします。もう一つの方法は、舌の上にワックスや文房具店で売っている「ひっつき虫」をひとつまみ、オモリとして乗せてやります。基本的には、舌の先端の方に乗せればのせるほど、そして乗せる量が多いほど、音は低くなります。ただ、あまり沢山乗せすぎると、上手く振動しません。

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(写真11:舌の上にのせたオモリ)

 ドローンリードは、舌が壊れても、鞘さえ無事なら、身の回りのもので十分対応できる場合が多いので、そのような場合は一度上記をお試し下さい。もちろん、最初はうまく行かないかもしれませんが、決して難しい技術を要するものではないので、何度かやっているうちにコツが分かってくると思います。

<今日の一枚>

 最初に述べました通り、特に昨年あたりから試作的要素の強いご注文を多く頂いております。特に既存製品の規格に無いチャンターを設計する場合、何本も試作チャンターを作っては内径やテーパー比、音孔のポジションなどを色々と試してみるわけです。試作チャンターと言っても、実際に製品にした状態で鳴ることを確認する必要があるので、チャンター内部・外部もきちんオイル処理を施します。試作リードも、再現性を確保しておく必要から、必ず数本作ります。

 さて、以下の写真は、そんな試作過程のワンシーンです。

Cimg4806

 これはドイツのお客様からご要望があった特別なC管ドゥダイの試作チャンターの一本目です。リードとチャンター内径を確定した後、あたりをつけてチャンターに音孔をあけてみたら、全体的に音が高かったため、音孔を同じ木材の端材でうめて、再利用を企てているところです。杭のように差し込んだ端材を根元で切り落とし、チャンター表面にもう一度やすりをかけ、内部のボアをきれいにすれば、再利用ができます。手間がかかりますが、それでも新しい試作チャンターを一からつくるよりはずっと早いです。このあと、数本きれいな試作チャンターを作り、音孔ポジションを微調整しながら確定した後、最終製品を作って納品しました。

 なお、音が高すぎる場合、理論的にはリードのポジションをもう少し上にするとか、リードをもう少し低めに調整する、などの方法で解決を図ることも可能ですが、この時はリード自体はよく出来ていたことと、シングルリードの場合は(ドゥダイはシングルリード・チャンター)チャンターの長さとリードの相性が大切なので、音孔の位置を変えることで対応しました。

 <現在取り組んでいる試作バグパイプ>

  • ドゥダィD管キー付きチャンター(カーボンリードの設計並びにチャンターの音孔ポジションを確定。1年以上お待たせしておりますが、ようやく試作段階が終わりつつあるので、近日中に製品化できそうです。)
  • A-minor仕様のガイタチャンター(内部のテーパー構造を確定)
  • ボーダーパイプス(チャンター内部のテーパー構造を確定)

 昨年後半、ヒュンメルヒェンで色々なバージョンを作ったほか、ボック系バグパイプでも新しい試みをしたので、次回以降の記事でおいおいご紹介したいと思います。

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バグパイプ工房 そのだ

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2012年10月 7日 (日)

ゴム製ブローパイプバルブの作り方

 先日私のお得意様から、「自分でゴム製のブローパイプバルブを作ってみたい」とのご相談を受けました。本ブログでは、以前皮製バルブの作り方をご紹介しましたが(http://bagpipesonoda.air-nifty.com/blog/2011/05/post-10c5.html)、その後ゴム製バルブを導入してみたところ、何人かのお客様からご好評を頂きましたので、最近はゴムで作ることも多くなりました。

 さて、作り方です。まず、二種類のゴム板を用意します(下写真左)。黒いほうは「CRゴム板」、茶色いほうは「飴ゴム」という商品名で、東急ハンズで安価に手に入ります。厚さはそれぞれ1mmです。

Cimg4693

 最初に、皮を丸くくりぬく「ハトメ抜き」という道具を使って、飴ゴムのほうに型をつけます。ここでは印をつけるためだけで、くりぬきません。皮製バルブの際に書きましたが、この道具は皮革工芸に使われるもので、インターネットでも手に入ります。くりぬく円の直径は、ブローパイプストックの内径から2~3mm程度小さい直径のものがよいでしょう。私はブローパイプストックの内径を大抵18mmで作っていますので、この用途には直径15mm又は16mmのものを使っています。

Cimg4696

 丸く印をつけたところに、小さな尻尾部分をつけてやります。

Cimg4698  

 これをハサミで丁寧に切り取ります。ここで、ゴムを引っ張りながら切ると、きれいに切れませんので、注意してください。また、ハサミを何回も細かくチョキチョキと動かして切ると、切断面が段々になってしまいがちなので、ハサミを大きくあけ、一回の「チョキ」でできるだけ長く切るようにします。ここは慎重に行います。

Cimg4699

 次に、黒いゴムをくりぬきます。ここでは、ハトメ抜きで、そのままくりぬきます。

Cimg4697

切り出した飴ゴムと黒ゴムのパーツです。

Cimg4700

 黒ゴムのほうは、カッターで端を少し切ってやります。

Cimg4701

 飴ゴムと黒ゴムを張り合わせます。私は二剤混合の耐水性エポキシ接着剤を使っています。このエポキシ接着剤のパッケージには「ゴムの接着には向かない」と書いてあるのですが、おかしなことに「ゴムも接着できる」と書いてある他の接着剤よりもよく接着できるため、これを使っています。ただ、私自身このエポキシ接着剤に100%満足しているわけではなく、もっといい接着剤があればそれを使いたいのですが、今のところ見つかっていません。もしゴム専用のいい接着剤をご存知の方がおられましたら、ご教示頂ければ幸いです。

Cimg4704

 接着済みのパーツです。

Cimg4705

次に、金属の薄い板を用意します。私は厚さ0.3mmの真鍮板を、幅4ミリほどにカットして使っています。真鍮板も東急ハンズなどで手に入りますし、金属用のハサミがあれば切ることができます。切断面は紙やすりをかけて滑らかにしておきます。切断面をそのままにしておくと、手を切ったりジョイントの巻き糸を切断してしまうので、ご注意下さい。

 Cimg4707

  この真鍮板の端5mmくらいを、ペンチを使って折り曲げます。

Cimg4708_2

 折り曲げた部分の間に飴ゴムパーツの尻尾部分を差込み、ペンチを使ってきっちりはさんで固定します。

Cimg4709

 これで出来上がりです。下の写真の左が裏側、右が表から見たものです。

Cimg4710

 さて、これをブローパイプに取り付けるのですが、取り付け方は皮製バルブと基本的に同じで、金属の部分を糸で巻きつけます。しかし、ゴム製バルブの場合には少しコツが必要です。というのは、取り付ける位置の微妙な違いによって、動作が全然違ってくるからです。この点については、何ヶ月か前に、当工房のお客様にご覧頂けるよう、ビデオをYouTubeにアップしてありますので、こちらをご覧下さい。http://www.youtube.com/watch?v=sD-KsbAzaLE

 ところで、口吹き式バグパイプのブローパイプには、上述のように飴ゴムと黒ゴムを貼り合わせたものを使っていますが、最初は次の写真のように飴ゴムだけの一層構造のバルブを使っていました。

Cimg4712

 飴ゴムだけでもきちっと空気の逆流を止められますし、むしろ取り付けは飴ゴム一層タイプのほうが簡単なのですが、長時間演奏し続けたり、演奏後ブローパイプをストックに差し込んだままにして長時間湿気にさらすと、バルブが反ってしまうということが分かりました。このため、湿気による反りを減殺するために二層にしました。ちなみに、一層タイプの「反り」が判明したのは、昨年のバグパイプ製作コースでのこと。製作コースではヒュンメルヒェンとボックを作って頂くのですが、ヒュンメルヒェンのほうが作業量が少なく、ボック組より早く完成するため、ヒュンメルヒェン組はさっさと製作を終わらせ、山羊の毛だらけになっているボック組を横目に、完成した楽器で遊んでいるわけです。で、ヒュンメルヒェン組の中に、極めて練習熱心な少年がいまして、彼は作ったばかりのヒュンメルヘンを片時も手放さず、何時間もぶっ続けで練習に励んでおりました。そこでこの「反り」が発生し、問題点が明らかになったという次第です。この少年、全くのバグパイプ初心者だったのですが、コースが終わる頃には何曲かのレパートリーを演奏できるようになって帰って行きました。やはり練習は大切ですね。

 この飴ゴム一層タイプは、湿気にさらされなければ問題ありませんし、取り付けも容易ですから、ふいご式のブローパイプ(ふいごとバッグの接続管)には、今もこれを使っています。

 反りの問題さえなければ、一層で十分対応できるので、反らない素材があれば使ってみたいと思っています。厚さ1mmほどのシリコン板が手に入れば、使ってみたいのですが、なかなか見つからず現在に至っています。この点についても、もしいい素材があるようでしたら、ご連絡頂ければ幸いです。

<今日の一本>

 今回はお客様の演奏をご紹介いたします。神戸在住の「てりー@LDMT」さんが、ご自身が関わっておられる音楽プロジェクトに、当工房のヒュンメルヒェンを使って下さっています。「東方永夜抄-風神録 Floating Cloud - 夏果の郷」という曲で、YouTubeで聴くことができます。http://www.youtube.com/watch?v=qp-0RONUm-Y

 このプロジェクトの公式サイトはこちらですので、合わせてご覧下さい。「てりー@LDMT」さんのほか、某有名パイパーの方も参加されています。→http://floatingcloud.net/disc/toho_irish/

 また、「Tranica」というサークルの自主制作盤での「とある祈り」という曲で、部分的ですがヒュンメルヒェンを二胡とのユニゾンで使用してくださったとのこと。サイトのリンク(こちら→http://tranica.net/)から演奏をお聴き頂けます。

 「てりー@LDMT」さんはもともとアコーディオンを演奏されていたとのことで、バグパイプは初めてだったそうですが、バグパイプの演奏技術を習得し、なお且つご自身のオリジナルに用いるという離れ業を、極めて短期間で実現された方です。特に「東方~」の演奏は、楽器入手後わずか数ヶ月だったとのこと。

 お客様が当工房のバグパイプを使ってご活躍され、バグパイプの新境地を切り開いておられることを知るのは、製作者として何より嬉しいことです。

  <現在取り組んでいるバグパイプ>

 前回完成間近だったブラックウッド製ふいご式A管スコティッシュ・スモールパイプスが完成し、お客様にお送りしました。これです。(変なバグパイプばっかり作っているようですが、普通のパイプスも作ってます。)

 Cimg4574  

 既存製品以外で、開発を請け負っているプロジェクトは以下の通りです。(毎度ながら、納期遅れてすみません・・・。)

  • ヒュンメルヒェンC管及びアルトF管・キー付きチャンター(ほぼ完成)
  • オープン運指のスコットランド音階プラクティスチャンター(完成)
  • ドゥダィD管キー付きチャンター(キーのポジション確定作業中)
  • オープン運指のC管ドゥダイ
  • A-minor仕様のガイタチャンター
  • ダブルチャンターヒュンメルヒェンD管
  • (ついに!)ボーダーパイプス

 成果は今後の記事でご紹介していきたいと思います。

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2012年7月25日 (水)

ブログ再開・「バグパイプ豆知識」ページのご案内

 大変ながらくご無沙汰しておりました。ここ2ヶ月ほど公私ともに極めて多忙であり、また体調を崩していた時期もあったため、ブログやホームページの更新まで手が回りませんでした。少しずつ本来の仕事のスケジュールに戻ることが出来るようになりましたので、ブログ記事の掲載を再開したいと思います。というわけで、今回は簡単なお知らせから。

 おかげさまで、ブログを始めてから2年近くになりました。その間、いくつかの記事を書いてきましたが、その中で、今後もご参照して頂けるような内容の記事をピックアップし、新しくホームページ上に設けた「バグパイプ豆知識」というページにリスト化しました。珍しいバグパイプに関する情報やリードの作り方、チューニング方法などの記事が、すぐに見つかるように致しましたので、御必要に応じてご参照頂ければ幸いです。(こちら→http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/J-Information.html

 また、ここしばらく、日本語ホームページのリンクが機能しない状態が続いておりました。これにつきましても、今回の更新を機会に修復を図りましたので、またご覧頂ければ幸いです。ご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。

 次回以降は、最近の新製品のご紹介と、その楽器のプロフィールや歴史的バックグラウンドについて書いていきます。

 これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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2012年3月19日 (月)

「バグパイプって幾らぐらいするんですか?」

 標記の質問は、私に対する「よくある質問」の第三位にランクされます。ちなみに第二位は「バグパイプを作るのにどのくらい時間がかかりますか」ですが、実はこの質問は「幾らくらいするんですか」の質問と表裏一体です。これについては後述します。第一位は主に欧米人からの問いかけで、「どうして日本人がドイツでバグパイプを作ってるんですか」です。

 バグパイプの価格については、時折ネットのフォーラムなどでも、主にハイランドパイプスに関して「XX円以下のバグパイプは間違いなくパ〇スタン製だから要注意」といった、初心者に対するアドバイスの形で取り上げられているのをみかけます。今回は、バグパイプの価格構造とその判断基準について、全般的なアプローチで考えてみたいと思います。これからバグパイプを買おうと考えている方の参考になれば幸いです。

 さて、バグパイプも含め、楽器というのはとても夢のある製品だと思います。私もそうですが、殆どのバグパイプ職人は、単に収入を得る目的以上のモチベーションを以って、バグパイプを作っていることでしょう。しかし、おとぎ話の中ではなく現実の社会でバグパイプが製造・流通・販売され、バグパイプ職人はそれで生活の糧を得ているわけですから、バグパイプの価格も経済的要因、例えば市場特性、物価レベル、労働コスト・原材料費、需給バランスによって決定されます。逆に言えば、こうした諸点を冷静に考えていけば、バグパイプの適正な価格帯について、ある程度自分で予想してみることができます。

 詳細には触れませんが、多くの場合、バグパイプの価格の大部分は職人の工賃です。「金・銀・パール」で派手に飾られたバグパイプなら話は別ですが、一般的なバグパイプなら、原材料費は価格全体の一部を占めるに過ぎません。従って、工賃に想像をめぐらせてみることが大切です。工賃とは、即ち「時間単価×作業時間」です。

 まず、時間単価を見てみましょう。ご存知の通り、バグパイプの殆どはヨーロッパ諸国の民族楽器であり、信頼できるメーカーの殆どが欧州、北米、豪州等(もちろん日本も!)の先進国に集中しています。これら先進国の物価や労働コストは、程度の差こそあれ、おおまかには日本と比較しうるレベルです。むしろ国によっては日本より高いところもあります。既に社会人の方は、ボーナスも含めたご自身の税引き前の年収を年間労働時間で割ってみてください。算出した時間単価は一つの参考になるでしょう。但し、バグパイプの価格設定では、職人や従業員の生活費(サラリーマンで言えば給料の部分)に加え、材料費、工房の賃貸料、工作機械への投資、光熱費、販管費等を盛り込む必要があるので、平均的サラリーマンの時給プラスアルファの時間単価を用いて計算しないと、業として成り立たないことになります。

 次に問題となるのが作業時間です。これはまさに、上記の「よくある質問」の第二位、「バグパイプを作るのにどのくらい時間がかかりますか」です。以下は、私の作っているバグパイプで一番シンプルな、標準モデル・ヒュンメルヒェンの製作工程を、ごく大まかに記したものです。

1.木材の切り出し(大きい板状の木材を適切な大きさの角材に切る)。

2.木材のボア(中空の筒にする)。

3.木材外側の旋盤加工(木材の筒を各部品の形に成形する)と研磨。

4.木部パーツの表面塗装、並びにボア内面のオイル処理。

5.チャンターに音孔をあける。

6.革バッグの縫製。

7.木部パーツのバッグへの装着。

8.リード製作。

9.リードのフィッティングとチューニング。

(注:上記各工程は、さらにいくつもの細かい工程から成り立っています。)

 実際には、同種の楽器を何台かまとめて作ることが多いので、一台あたりの所要時間の算出は難しいですが、一番簡素な一本ドローンタイプのヒュンメルヒェンでも、これだけの作業を全てこなして発送するまでに、少なく見積もって十数時間はかかります。これは純粋に製作と調整に要する時間ですが、この他にも、お客様との打ち合わせや、見積・請求書の作成、税金申告といった管理業務に要する時間も考慮して価格を設定しなければなりません。

 ちなみに、上記で例として挙げた当工房のヒュンメルヒェンは、一番簡単な構造の一本ドローンタイプで、EU域外向け税抜き価格が2012年現在で360ユーロ(EU向け税込み価格は425ユーロ)です。当工房のヒュンメルヒェンは、入門者の方が手軽に買えるように、そして新参者の日本人職人である私が欧米市場に受け入れてもらうための呼び水製品となるように、意図的にかなり割安な価格設定をしてあり、恐らく欧米製ヒュンメルヘンの中では最も安いレベルだと思いますが、それでも日本円にして4万円前後になります。もっと手の込んだ製品になるとさらに作業時間を要しますし、有名な職人さんの製品ならネームバリューで価格が上がります。もちろん、単一製品のみを扱っている専門メーカーでは、材料の大量購入や、コンピューター制御の工作機械による工程の一部自動化で、ある程度のコスト削減は可能でしょう。こうした「規模の経済性」の恩恵もあってか、最近はスコットランドのきちんとしたハイランドパイプスメーカーの中には、為替相場によっては10万円を切る普及モデルを出しているところもあるようです。それでも楽器としての質を維持するためには、依然として職人の手を介さなければならない工程も少なくなく、材料も良いものを使いますから、それ以上の価格低減には自ずと限界があります。

 最後に、これに関連して、もう一点。当然ながら、物価や労働コストの安い国で作ったバグパイプの価格は安くなります。ヨーロッパの中でも物価が安いバルカン諸国では、熟練職人さんの作った高品質のガイディが、西ヨーロッパのバグパイプに比べると驚くほど安い値段で買えるそうです。また、よく話題となるパ〇スタンのバグパイプが安いのも、労働コストが安いためです。残念ながら、安価なパ〇スタンのバグパイプの品質には疑問が呈される場面が多く、確かに演奏に適さないような製品も多く流通しているようですが、一方で単に生産国のイメージだけで品質を云々するのは適切ではない場合もあります。現状のパ〇スタン製バグパイプを擁護するつもりはありませんが、もしパ〇スタンの真面目な職人がスコットランドで修行して高い技術を身につけたとしましょう。そういう人が故郷に帰ってきちんとした工房を設立し、いい材料を使って高品質のハイランドパイプスを作り始めたら、その製品は良品として認めるのがフェアというものでしょう(現時点で、実際にそういうメーカーがあるかどうかは、存じておりません)。また逆に、ヨーロッパのメーカーだから安心、と言い切れないような事例を耳にすることもあります。

 このように、バグパイプを作るのにはどのような工程が必要なのか、生産国はどこなのか、等を考えていくと、大まかではあってもバグパイプの価格についてある程度予想ができるのではないかと思います。もちろん、価格は購入に際しての一つの目安に過ぎません。楽器はメーカー毎に個性がありますから、それぞれの楽器の特性、職人の技術と資質、そして購入後にメンテナンスやリードの安定供給が期待できるか等のアフターケア面も考慮しながら、できることなら自分でメーカーとコミュニケーションをとり、その上で判断されるのが望ましいでしょう。

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2012年3月 5日 (月)

「ガイタのすべて」取扱店・オンラインマガジン「The Celt」・オーストリアのフォークミュージックシーン

 なんだかごちゃごちゃなタイトルで恐縮ですが、今回は私の知人やお取引先の活動に関するニュースです。もちろん、全てにバグパイプが関係しています。

1.「ガイタのすべて」は世界楽器てみる屋さんでもお買い求め頂けます。電子バグパイプも!

 従来より、私の小型中世バグパイプを取り扱って下さっているインターネット楽器店「世界楽器てみる屋」さんが、拙訳書「ガイタのすべて」の販売を始めて下さいました。また同店では、最近「テクノパイプ」というスウェーデン製の電子バグパイプも取り扱いを開始し、ハイランド運指とガイタ・ガレガ運指(オープン)対応のものを取り揃えているそうです。「ガイタのすべて」、「テクノパイプ」ともに、次のURLでご覧頂けます(http://gakki.temiruya.com/archives/8500/20002/)。

 てみる屋さんのご主人とは2009年以来のお付き合いになりますが、この方のえらいところは、単に品物を仕入れて転売しているだけではなく、仕入れた楽器は全て自分で演奏できるようにし、メンテナンスのノウハウも身につける努力をされていることです。2009年に初めて小型中世バグパイプを納品し、三ヵ月後くらいに訪問させて頂いたところ、既に家の前でラクラク演奏しておられました。また、バグパイプのメンテナンスにはそれなりのコツがあるので、「もしもクレームとかあったら私に転送して下さい」と申し上げているのですが、これまでのところお客様からの問い合わせには、全てご自分で対応されています。もちろん、てみる屋さんから私への質問はありますが、私が回答した内容をご自分で実践され、それをお客さんにフィードバックしておられます。(注:上記、提灯記事のようですが、別にお金をもらってアフィリエイト広告をしているわけではなく、私の正直な感想です。)

2.VICA(Vermont Institute of Celtic Arts)のオンラインマガジン「The Celt」

 私の知人で米国有数のバグパイプ職人であるMichaek MacHarg氏の息子さん、Iain MacHargさんが主宰するVermont Instutite of Celtic Artsが、オンラインマガジン「The Celt」の配信を開始しました。Iainさんはニューイングランドの有名なハイランドパイパーで、VICAでの活動や「The Celt」の内容も、ハイランドパイプスを中心に、スコティッシュのパイピングに関するものが豊富です。ハイランドパイプスというと、つい本家のスコットランドに目が向きがちになりますが、新大陸を侮る無かれ、米国やカナダにはすごいパイパーが沢山いますし、伝統音楽への旺盛な探究心は本国に勝るとも劣らないとされます(日系移民の多いブラジルでは、武道が古いスタイルで残っていたりするという話を聞いたことがありますが、それと同じでしょうか)。「The Celt」はVICAのホームページ(http://www.vtcelticarts.org/Vermont_Institute_of_Celtic_Arts/Homepage.html)からオンライン購読を申し込むことが出来ます。現在、オンライン購読は無料だそうです。(将来有料化する可能性はあるそうですが、その場合でも僅かな購読料にとどめるとのことです。また、無料購読の時期の分について、遡及して請求されることはありません。)

 ちなみにお父さんのMichaelさんは、色々なバグパイプを作っておられますが、ハイランドパイプスやバッグの製作でも有名で、特に彼のシープスキン・バッグは全米で愛用されています。私の尊敬する職人さんの一人です。

3.オーストリア・フォークミュージック・シーンのアルバムサイト

 こちらは、オーストリアの知人Ernst Bimminger氏が運営しているフォトアルバムのページで、同国のフォークミュージックを楽しむ人たちの姿が生き生きと紹介されています。ボックなどの地元のバグパイプやハーディガーディはもちろん、フィドル、ハープ、アコーデオン、リュート/テオルボ、ハックブレット、クルムホルンなどの、色々な楽器が登場します。タイトルが全てドイツ語なのですが、最初のページでも次々に写真が変わるので、それだけでも楽しめます。伝統音楽の楽しみ方には、本当に色々なスタイルがあるんだな、ということが視覚的に良く分かります。音楽の都ウィーン、ザルツブルグ音楽祭など、クラシック音楽のイメージが強いオーストリアですが、それだけではない同国の音楽文化の懐の深さを垣間見ることが出来るサイトです。http://www.kulturfoto.at/

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当工房のバグパイプ

  • 2.2 セックピーパ(スウェーディッシュ・バグパイプ):ドローン
    当工房で製作しているバグパイプの一部をご紹介いたします。
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