2016年10月 4日 (火)

バグパイプを清潔に保つために

(お知らせ:日本語ホームページのアドレスが変わりました。新しいアドレスは次の通りです。http://bagpipesonoda.art.coocan.jp/

少し前になりますが、8月に英国の医学ジャーナルがインターネットに掲載した記事をご記憶の方も多いでしょう。肺疾患で亡くなった英国人男性パイパーの症例報告ですが、バグパイプ(ハイランドパイプス)内部で繁殖した雑菌・カビを吸入したことが疾患を悪化させた疑いがある、と指摘されています。さらにこの報告では、バグパイプに限らず、同様の疾患は他の管楽器奏者においても発生しうるとして、管楽器奏者に広く注意を促していました。

バグパイプ奏者に関していえば、このような症例が報告されたのは世界初だそうで(他の管楽器奏者では過去に似た症例があったとのこと)、現在世界に何十万といるであろうバグパイプ奏者の殆どが元気にバグパイプを演奏している現状を考えれば、極めて稀なケースなのでしょうが、こうした症例が報告されたことを踏まえ、楽器を清潔に保つことの重要性を改めて認識しておくのは有意義なことと思われます。

そこで今回は、主に衛生面に焦点を当て、口吹き式バグパイプを清潔に保つために出来ることを、いくつかご紹介いたします。経験豊富なパイパーの方、或いは他の管楽器を演奏される方がご覧になれば、全て当たり前のことかもしれませんが、初めての管楽器がバグパイプで、且つ独学で習得に励む方の場合、どうしても基本的なメンテナンスについて学ぶ機会が限られてくるので、特にそうした方々にご参考にして頂ければ幸いです。

<歯磨き>

状況が許せば、練習・演奏の前に歯磨きをすることをお勧めします。

 

<演奏後の保管>

演奏後は、ブローパイプ、チャンター、ドローンをバッグから取り外しておきます。特にブローパイプは湿気を多く含んでいるので、必ず外しましょう。この際、ジョイント部分(糸・ヘンプを巻いてある部分)と、ストック内側の湿り気をふき取ります。また、バッグ内の湿った空気は、できるだけ出しておきます。楽器は高音多湿の場所をさけて保管します。

 

<マウスピース>

プラスティックのマウスピース部分は、演奏後に管楽器用のマウスピースクリーナーで消毒します。マウスピース内部は、綿棒を使って汚れを拭き取ると良いでしょう。

 

<ブローパイプ・逆流防止バルブ>

マウスピースから下へ続くブローパイプ木管部分は、管楽器用の清掃棒(スワブ)が差し込めるのなら、それで内部をきれいにします。内径が狭くて差し込めるスワブが見つからない場合、下から綿棒などで水滴をぬぐい、できるだけ湿気が残らないようにします。演奏後、逆流防止のバルブには水滴が多くついていたり、湿っていたりするので、これをふき取ります。革製バルブの場合は、時折オリーブオイルを塗ってやります。

 

<リードキャップ>

リードキャップを装着して、チャンターやドローンを保管する場合には、チャンター・ドローンのジョイント部分の湿り気を予めふき取り、リードキャップの汚れやカビの有無をチェックしましょう。プラスティック製のリードキャップなら、マウスピースクリーナーが使えます。木製キャップの場合には、適宜汚れをふき取り、時折オリーブオイル・アーモンドオイルを塗る等のメンテナンスをしましょう。

 

<バッグ>

まず上記の通り、演奏後はバッグからブローパイプ、チャンター、ドローン管を外し、通気性をよくした上で保管します。バッグ自体のメンテナンスは、以下のようにバッグのタイプによって異なります。

 

1)革バッグの場合

シーズニングで気密性を持たせている革バッグは、定期的にシーズニング処理をします。これは、気密性維持に加え、新しいシーズニングを入れることが内部の清掃を兼ねるため、適宜行うことをお勧めします。

一方、当工房では、シーズニングフリーの革バッグも製作しております。このタイプの革バッグでは、シーズニングを入れないため、内部を乾燥した状態に保ちやすいですが、今回上記のような症例報告がなされたのを受け、シーズニングフリー・バッグの内部を手入れするための清掃棒を作ってみました(写真)。

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ご覧の通り、丸棒の先にガーゼや布を取り付けただけのものなので、自分で簡単に製作できます。ストックからバッグの中に差し込んで、内部の湿気や汚れをふき取るために使います。棒のサイズは、直径810ミリ、長さ4045センチ程度がお勧めです。私も自分のハイランドパイプスのシンセティックバッグで試してみましたが、この長さがあれば内部全体を拭くことができます。もちろん長いほうが奥まで届きやすいのですが、長すぎると楽器ケースに入らなかったり、力の加減が難しいという難点があるので、せいぜい50センチ程度までが使いやすいと思います。また、バッグの内部を傷つけないように、紙やすりなどで棒の先端部分の角を取り、丸くしておきましょう。さらに、棒の表面全体に紙やすりをかけ(120番・240番の仕上げで十分です)、その後オリーブオイルなどを塗って乾かしてから使用すれば、棒の保護になります。私は持ちやすいように太目のグリップを作りましたが、これは必ずしも必要ではありません。棒の根元に、バットやラケットのグリップ用テープを巻けばことが足ります。

なお、革バッグでは(シーズニング有・無どちらの場合でも)、演奏後バッグの内部にハッカ油を1~2滴垂らしておくと、ある程度の抗カビ効果が期待できます。但し、演奏中は、ブローパイプを通じて僅かに逆流してくる空気の中にハッカ成分が混じり、これを吸入することがあるので、呼吸器に疾患・アレルギー・過敏性のある方は行わないで下さい。ハッカ油滴下後しばらくは演奏に際して口元にハッカの清涼感が感じられますが、これは人により好き嫌いがありますから、これが気になる方にはお勧めできません。いずれにせよ、自分に合わないと感じたら、使用を避けましょう。また、ハッカ油は短時間で揮発するため、効果は長く持続しません。このため、ハッカ油を使った場合でもこれに頼り切らず、上述の各種メンテナンスはしっかり行いましょう。

 

2)シンセティックバッグ (人工素材バッグ)の場合

シンセティックバッグの某メーカーに確認したところ、伝統的な革バッグに比べるとシンセティックバッグは雑菌が繁殖しにくいので、あまり心配はいらない、とのことです。しかし、気になる場合には、ジッパー付きのバッグなら時折ジッパーを開いて内部を拭くことができますし、ジッパーが無い場合でも上記の清掃棒での手入れが可能です。

以下は、あくまでも参考ですが、どうしても内部を丸洗いしたい場合、上記メーカーから「哺乳瓶の消毒に使うミルトン洗浄液をぬるま湯程度に温め、バッグに注ぎ入れて消毒した後、冷水でこれをよく洗い流し、その後しっかり乾燥させる」という方法をご提案頂きました。但し、ミルトン消毒液は、一部のプラスティックや金属に対して腐食性があるとされますし、基本的に木管の内部を多くの水にさらすことは避けたほうが良いことから、この方法はストックを取り外したうえで行うことが望ましいです。しかし何度もストックを取り外して付け直すと、取り付け部分が弱ってくるので、この方法はどうしても必要と思われる場合にのみ(例えば、汚れがひどいが、新しいバッグを注文して入手する前に演奏の仕事が入ってしまった、など)、あくまでも緊急避難的な手段に留めておくのがよいでしょう。

 

革・人工素材いずれの場合でも、基本的にバッグは消耗品です。空気もれが改善しないといった状況の他、内部の汚れがひどい、変な臭いがし始めた、と感じたら、バッグの交換を考えましょう。また、インターネットオークション等で中古の口吹きバグパイプを購入した場合には、マウスピースやブローパイプをよく手入れした上、バッグの状態もよくチェックしましょう。当工房では、こちらで製作したバグパイプはもとより、他の職人さんが製作したバグパイプについてもバッグ交換サービスを承っておりますので、ご自身で交換が難しい場合にはご相談下さい。

丁寧にお手入れした清潔なバグパイプで演奏を楽しみましょう!

 

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2016/10/04/42971 バグパイプ工房 そのだ

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2014年11月30日 (日)

シーズニングによる革バッグのメンテナンス

(1年以上ブログを放置していたことについては何卒ご容赦を...)

ハイランドパイプス奏者の皆さんなら、バグパイプのバッグを気密に保つためのシーズニング処理についてよくご存知のことでしょう。先輩パイパーの方々からやりかたを教わった方も多いことと思います。一方で、演奏人口の少ない、他のバグパイプを独習で学んでおられる方からは、シーズニング処理についてご質問を頂くことも少なくありません。そこで今回は、シーズニングとその方法についてご紹介いたします。

「シーズニング」というのは、あえて日本語で言うと、「バッグを気密に保つためにその内部に使用する目止め剤」ということになります。革製のバッグの場合、微細な毛穴や縫い目などから空気が漏れてしまうので、これを塞ぐために使用するものです。常温ではゲル状のものが多いですが、粘度の高い液状の場合もあります。自分で調合しているメーカーさんもおられますし、自作用のレシピなどもインターネット上で紹介されていますが、既製品をバグパイプ関連のオンラインショップで簡単に入手することができます。日本でもバグパイプ関連商品を取り扱っている業者さんがいくつかありますので、国内での調達も可能でしょう。なお、ハイランドパイプス用に売られているこれらのシーズニングは、その他のバグパイプにも概ね使用可能です。ただし、革のタイプによる相性もあるので、お持ちのバグパイプを製作した職人さんに事前にご相談して下さい。私の製品については、ハイランドパイプス用のシーズニングをご使用頂けます(但し、革バッグのみです。ゴアテックスバッグには使用しないで下さい。)

以下、スコットランドの某バグパイプメーカーが販売しているシーズニング(ハイランドパイパーの間では有名なブランド)を使ったバッグのシーズニング処理です。なお、この処理を
行う際には、汚れても良いような服装をお勧めします。また、作業は、できれば屋外か風呂場、あるいは板張りの部屋で行うことをお勧めします。
じゅうたんや畳の部屋で行うと、栓が外れてシーズニングが飛び散った場合の後始末が大変です。

まず、このシーズニングは常温では固まっているので、これを過熱して液状にします。この製品は、最近はプラスティック容器に入っており、電子レンジで過熱するようになっています(使用説明にもそう書いてあります)。昔は容器が金属の缶で、熱いお湯につけて温めていたので、私はその習慣で、今も湯せんで温めています。温める際、中の空気が熱で膨張するので、キャップを緩めて空気が抜けるようにしておきます。中身が温まってどろどろの液状になったら、割り箸などでこれをよくかき混ぜ、固形部分が残らないようにします。

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シーズニングが温まるまでの間に、バッグからチャンター・ドローン・ブローパイプを外し、ブローパイプストックを除く各ストックに栓をします。ちょうどよい大きさのコルク栓があれば理想的です。無ければキッチンペーパーを硬く丸めて代用できますが、いずれにしても、しっかりと栓がされていることを十分確認してくださいバッグカバーがついている場合は、必ず外しましょう。シーズニングが飛び散るとシミになって、なかなか落ちないからです。

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じょうごをブローパイプに差込み、まだ温かい状態のシーズニングを注ぎいれます。どのくらい注ぐかは、バグパイプの種類やバッグの大きさにより異なります。使用説明によれば、ハイランドパイプスの場合、新しいバッグなら中身の半分、その後のメンテナンスでは四分の一、と書いてあります。この際、どぼどぼと一度に沢山注ぐのではなく、少しずつ注意深く注ぎましょう。一度に大量に注ぐと、ストック内部を通ったシーズニングがバッグ内部にいきわたる前にストックからあふれ出し、バッグ表面を汚してしまうことがあるからです。

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注ぐ際は、出来れば各ストックを上に向けた状態で行うのがよいと思います。ストックの数が多いと一人では難しいので、手伝ってもらえる人がいれば、サポートを頼むとよいでしょう。これは、ブローパイプストックから注ぎ込んだシーズニングが別のストックに流れ込んでしまい、革部分に行き渡る量が少なくなるのを防ぐのと、後でストック内部の掃除をするのを楽にするためです。

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必要な分量のシーズニングを注ぎ終わったら、注ぎ口のブローパイプストックにも栓をします。この際、バッグ内の空気は出来るだけ抜いて、バッグをぺったんこの状態にしておきます

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次に、手でバッグをよく揉み、中に入れたシーズニングが内部に満遍なく行き渡るようにします。

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バッグを手で揉む際には、特に縫い目やストックの付け根にも、十分シーズニングが行き渡るように注意します。

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バッグの内部にシーズニングが十分に行き渡ったら、ブローパイプストックにはめていた栓を外し、そこにブローパイプを差し込んで、空気を吹き込みます。パンパンに膨らんだら、しばらく放置します。バッグをパンパンにすることで、革の内部にシーズニングが滲みこみ、後でこれがゲル化して微細な孔を塞ぐ目止めの役割をします。なお、バッグを膨らませた際、縫い目や毛穴からシーズニングが滲み出してくることがあります。これはある程度までなら許容範囲です。これは随時ふき取りましょう。パンパンにしたバッグも、しばらくするとしぼんでくることもありますが(栓の隙間や差し込んだブローパイプから空気が少しずつ抜けたりもします)、少しずつしぼんでいく程度なら問題ありません。しかし、シーズニングが染み出す量が著しく多く、すぐにバッグの空気が大量に抜けてしまうようなら、バッグそのものに何かしらの問題があることを疑う必要があります(毛穴等に比べ著しく大きな孔や裂け目がある、縫い目が大きすぎる、縫い目がほどけている、ストックがしっかり装着されていない、等)。こうした場合、問題の箇所からシーズニングが勢いよく噴出てくるので、修理すべき部位を特定できます。あるいは、バッグ表面全体からジワっと大量のシーズニングが染み出してきて、すぐにバッグの空気が抜けてしまうのなら、バッグの交換を検討しましょう。

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パンパンにしてしばらく放置してから、ころあいを見計らって、ストックの栓を外します。この頃になると、バッグはある程度しぼんで中の空気圧も低くなっていますが、栓を外す際にはゆっくりと注意深く行います。そうしないと、内部の圧力によってシーズニングが噴出することがあります。ここで、割り箸などに布切れを巻きつけたもので、ストック内部に付着したシーズニングをふき取っておきます。この作業は、シーズニングが完全に固まる前のほうが楽に出来ます。その後、チャンターストック以外のストックに、もう一度キッチンペーパーなどで軽く栓をしておきます。これは、吊り下げて干している間に、中のシーズニングがそこから流れ出し、バッグの表面に滴り落ちて汚してしまうのを防ぐためです。そして、チャンターストックを下に向けてバッグを吊るし、中のシーズニングを流しだします。下に受け皿になるものを置いておくとよいでしょう。流しだしたシーズニングは再利用しません。捨てましょう。

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あとは、数時間バッグをぶら下げておき、もう一度ストック内部の掃除をします。特にチャンターストック内部にはゲル化したシーズニングが多く付着しているので、これを丁寧に拭い取ります。その他のストックの内部も、もう一度確認しましょう。

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なお、今回使用したシーズニングは、ハイランドパイパーの間での定番商品ですが、つい先日、この商品をハイランドパイプスの新品バッグに使用したドイツ人の知人から、「処理後数時間で機密性が損なわれた。品質にむらがあるのかも。他にもそう言っている人がいた。」という話を聞きました。この意見は、一応ご参考までに紹介したのですが、私自身はこの商品を使っていて品質に問題があると感じた経験はありません。また、彼の場合、バッグそのものに何らかの問題があった可能性も否定できません。もちろん、他のメーカーの商品も出ているので、色々なメ種類を試してみるのも良いと思います。

また、シーズニング処理の頻度ですが、これは使用している楽器や使用状況によりまちまちです。基本的には、以前に比べて空気漏れが気になってきた、という場合に行えばいいと思います。ハイランドパイパーの方の中には、定期的に行ったほうがよい、と仰る方もおられます。特にハイランドパイプスはバッグにかかる負担が著しく大きいこともあるのでしょうが、もちろん、転ばぬ先の杖、という意味では、他のパイプスでも定期的に(例えば年一回)行っても構いません。最低限必要か、という意味では、楽器を定期的に使用し、またこれが清潔に保たれている限りでは、実際に機密性の低下が問題になり始めたり、革がごわごわしだしたかなと感じた時に行えばよいと思います。

材料となる革自体が十分気密(毛穴などからの漏れが無い)で耐水性に優れた処理がなされているものなら、縫製時に予め縫い目の目止めをしておくことで、革バッグでもシーズニングフリーにすることが出来ます。実際、私の製作している革バッグの何割かは、シーズニングフリーです。ただ、革は天然由来の材料のため、常にそういう状態のものが手に入るわけではありません(一応、買い付けの際、手触りである程度判断してから仕入れていますが)。当工房のバグパイプでは、必要な場合には、お客様へ出荷する際にこちらで予めシーズニング処理を行っていますので、そのままで演奏に問題がなければ、緊急にシーズニング処理をして頂く必要はありません。但し、演奏した後にバッグから湿った空気を出し、ストック内部についた水分をふき取る等、バッグを清潔に保つお手入れは欠かさないようにしてください。

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2013年9月 2日 (月)

世界のバグパイプのリスト!(追記)

 昨日のブログ記事で公開したリストですが、ブログ画面上で表示される際、文字のフォーマットが不統一になるなど、見づらい部分がありましたので、PDFとしてご覧頂けるようにいたしました。(こちらをクリック)。

2013年9月 1日 (日)

世界のバグパイプのリスト!

 皆様、またまた長らくご無沙汰してしましました。ブログを三ヶ月以上放置していました・・・。  

 さて、まずはご案内から。ミュンヘンで知合いになった明治大学の先生からご依頼を頂き、10月5日(土)に、同大学リバティアカデミーにて、バグパイプ関係の講演をさせて頂くことになりました。一般の方もご来場頂けますので、ご興味のある方は、是非お越し下さい。いくつか種類の違うバグパイプの音色を聴いて頂くために、少しですが演奏もさせて頂く予定です。講演並びにお申し込みの詳細は、こちらのサイトをご覧下さい。  

https://academy.meiji.jp/course/detail/1343/

 この講演では、色々な側面からバグパイプという楽器についてお話をさせて頂きたいと考えておりますが、その中でバグパイプの種類の多様性についても触れる予定です。このため、各国のバグパイプ名称一覧というものを作ってみました。リストの内容については、当日の講演でもう少しご説明いたしますが(例えばBrian Boru Irish Warpipesを、なぜイングランドの楽器として分類しているのか?バグパイプではないのにバグパイプとして扱われているものはどれ?等)、その種類の豊富さを多くの皆様に知って頂くため、先立って以下のごとくご紹介いたします。

国・地方

バグパイプ

一般名称

バグパイプ

個別名称(正式名称・通称・便宜的名称を含む。

一般名称を兼ねる場合もある。)

スコットランド

Bagpipe(s)

Scottish Great Highland Bagpipes

Scottish Small Pipes

Border Pipes / Lowland Pipes / Reel Pipes

Pastoral Pipes

イングランド

Bagpipe(s)

Northumbrian Small Pipes

English Greatpipes

Cornish Bagpipes

Brian Boru Irish Warpipes

Yorkshire Bagpipes

Lancashire Bagpipes

ウェールズ

Bagpipe(s)

Welsh Pipes

アイルランド

Bagpipe(s)

Uillean Pipes / Union Pipes

Irish Warpipes

スペイン

Gaita

Cornamusa

Gaita Galega

Gaita Asturiana

Gaita Alistana

Gaita Sanabresa

Gaita de Boto

Gaita de Saco

Gaita Llionesa

Xeremia

Sac de Gemexes

Ordecillo

ポルトガル

Gaita

Cornamusa

Gaita Mirandesa / Gaita transmontana

フランス

Musette

Musette de cour / Baroque Musette

Musette Bressane

Musette Bechonnet

Cornemuse

Cornemuse du Centre

Chabrette

Cabrette

Caramusa

Bodega

Boha

Bousine

Loure

Pipasso / Muchosa

Samponha

Sourdeline

Veuz

Vèze 

Binioú Kozh / Binioú Bihan

Binioú bras

イタリア

Zampogna

Zampogna

Piva

Müsa

Baghèt

Chekra

Ciaramella / Ciaramedda

Surdullina

Surdelina

サルジニア

Launeddas

マルタ

Zampogna

Zaqq

Qrajna

ベルギー

Pipsak

Muchosa / Muzosak

Doedelzak

Doedelzak

オランダ

Doedelzak

Doedelzak

ドイツ

Sackpfeife

Dudelsack

(本来はSackpfeifeが上位概念)

Hümmelchen

Schäferpfeife

Magdeburger

Marktsackpfeife

Dudey / Dreiblühmchen

Bock (Praetorius Bock)

Großer Bock (Praetorius Great Bock)

Kozoł

Méchawa

Méchawka

Böhmischer Bock

Egerländer Bock

オーストリア

Sackpfeife Dudelsack

Hümmelchen

Schäferpfeife

Böhmischer Bock

Egerländer Bock

スイス

Sackpfeife Dudelsack

Sackpfiffe

Piva

フィンランド

Säkkipilli

Säkkipilli

Pilai

Walpipe

ノルウェー

Sekkepipe

スウェーデン

Säckpipa

Säckpipa

デンマーク

Sækkepibe

ロシア

Volynka

Shjuvor (マリ共和国)

Shapar(チュヴァシ共和国)

Puvama(モルドヴィア共和国)

アゼルバイジャン

Tulum-Zurna

グルジア

Gudastviri / Chiboni / Stvri

Zunnifis

アルメニア

Parkapzuk

ウクライナ

Duda

エストニア

Torupill

Torupill

ラトヴィア

Dudas

リトアニア

Dudmais

ベラルーシ

Duda

Mutsianka

チェコ

Dudy

Dudy

Moldanky

ポーランド

Dudy

Dudy wielkopolskie

Kozioł biały

Kozioł czarny

Sierszeńki

スロバキア

Gaijdy

ハンガリー

Duda

スロベニア

Dude

ルーマニア

Cimpoi

ギリシャ

Askavlos

Askomandoura

Tsampouna / Tsambouna

Gaida

Touloum

Angion

マケドニア

Gaida

クロアチア

Gajde

ブルガリア

Gayda

Kaba Gayda

Jura Gayda

エジプト

Zummarah-bi-soan

リビア

Zurka

チュニジア

Mizwad

アルジェリア

Ghaita

Tadghita

トルコ

Tulum / Guda

Dankiyo

Gaida

Karkm

イラン

Ney Anban

インド

Mashak

Titti

Sruti upanga

(おまけ)パキスタン

Paki-Pipes (??)

<参考資料>

"Der Dudelsack in Europa - mit besonderer Berücksichtigung Bayerns", Bayerischer Landesverein für Heimatpflege, 1996

"Der Sorbische Dudelsack", Josef Režný, 1993

"Museo Internacional de Cornamusas", Escola Provincial de Gaitas, 2003

"Schule für den Böhmischen Bock", Rudolf Lughofer, 1998

"Os Segredos da Gaita", Xose Lois Foxo, 6th Edit., 2004

CD "Sackpfeifen in Schwaben 2000", Haus der Volkskunst, 2000

CD " Global Bagpipes" ARC Music Productions Int. Ltd., 2002

http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_bagpipes

 なお、本リストは上記参考資料を基に、私自身の記憶も総動員して作成したものですが、特にフランス、旧ソビエト、バルカン地方、アフリカ・中近東のバグパイプについては私も知らないことが多く、誤りや不備な点があるかもしれません。もしも訂正すべき点等ありましたら、ご指摘下さい。  

 また、リストではメジャーなバグパイプはほぼ網羅したつもりですが、これら以外にも多くのバグパイプが存在している可能性があります点も、あらかじめご了承下さい。便宜的に国ごとの分類を採用しておりますが、バグパイプは人為的に引かれた国境線とは関係なく発展してきましたので、同種のバグパイプが二つ以上の国にまたがって異なる名称で使用されている例もあります。

<ご協力のお願い>

上述の講演の際、ご来場の皆様に、日本国内のバグパイプ演奏者・団体・バンドのリストを作成し、配布しようと考えております。これからバグパイプを始めようとお考えになっている方、バグパイプの演奏を聴いてみたい方に、参考にしていただこうと言うのが目的です。既に私が個人的に存じ上げている方々には、個別にメールで依頼をさせて頂き、ハイランドパイプス奏者の皆様を中心にフィードバックを頂いたのですが、もしブログをご覧の皆様の中で、バグパイプの演奏パフォーマンスや指導をされておられ(できれば中級以上)、上記目的にご賛同頂ける方がいらっしゃいましたら、当方まで以下の内容をご連絡頂ければ幸いです。(送信先:bagpipesonoda@mbr.nifty.com)

1.お名前(又はバンド・演奏団体名)

2.演奏しているバグパイプの種類

3.活動拠点(都道府県のみで結構です)

4.連絡先(公開しても支障がない範囲でのメルアド・ホームページアドレス等)

5.ワンポイント・メッセージ(演奏する音楽のタイプや志向、アピール等を、100字以内でお願い致します)

バグパイプの種類は問いませんが、特に、演奏人口の少ないバグパイプを演奏されている方や、生演奏に触れる機会が限られてくる首都圏外でご活躍されておられる方、大歓迎です。宜しくお願い致します。

<今日の一枚>

 少しずつ古い楽器の修理の仕事も増えてまいりました。これは、20世紀半ばの製作と思われるボックのチャンター製作を依頼された時のものです。チャンターとそのリードを新しくしたほか、ドローンリードも新しいチャンターにあわせて調整しなおしました。先輩職人の方が製作された楽器に触れ、それを修理調整させて頂き、また楽器として機能する状態にする仕事を頂けるのは、大変光栄に思います。

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<現在開発中のバグパイプ>

ボーダーパイプス(もうすぐ納品・・・の予定。)

C管シェーファープファイフェ

高音域Bb管ボックチャンター

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2013/09/01/24329 バグパイプ工房 そのだ

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2013年5月21日 (火)

ユーロビジョン・ソングコンテスト 今年は二カ国がバグパイプを使用!

 皆様、すっかりご無沙汰してしまいました(前回のブログ記事に「明けましておめでとうございます」と書いてありました…)。前回も言い訳をしてしまいましたが、ここのところ特注製品のご注文を承ることが多く、試作に時間がかかるため、「ブログよりは納期・・・」という状態が続いており、大変失礼致しました。ブログ用に温めているネタはかなりありますし、長らく試作に取り組んでいたドゥダイが最近完成したので、現在お待ち頂いているお客様にご迷惑がかからない程度に、ブログ執筆も少しずつ再開していきたいと思います。

 さて、毎年この時期には、ヨーロッパ各国対抗歌合戦ともいうべきユーロビジョン・ソングコンテストが行われます。2年前にもこれに関する記事を書きましたが、しばしば色々なバグパイプが登場するので、見逃せないイベントなのです。残念ながら昨年は、ルーマニア代表がハリボテのバグパイプ(音なし)を持って登場しただけだったのですが、今年は二カ国の代表が、バグパイプを取り入れた曲でコンテストに臨みました。

 まずはブルガリア。今年出場した代表は、2007年にも出場したElitsa & Stoyanというグループです。2007年登場の際も、ブルガリアン・ボイスのボーカルが印象的だったので、このデュオについては一昨年のブログ記事でも触れました。今回はなんとバグパイプ付。普通のポップスを英語で歌うという無難な路線の国が多い中、強烈に土俗的な曲を歌ってくれるのは実に貴重です。映像はこちら(YouTubeのEurovisionアカウントより)→ http://www.youtube.com/watch?v=bExp3aNOFsE

 バルカン半島のバグパイプにはあまり詳しくないのですが、使われているバグパイプは、多分ジュラ・ガイダという、ブルガリアの小型バグパイプのように思います。ちなみにこのバグパイプ、日本にもすごい腕前の人がいらっしゃいますから、聴いたことがある方もおられるかもしれません。 

 もう一カ国はスペイン。スペインは2年前にガリシア出身のLucia Perezがちょこっとガイタ・ガレガの音を入れた曲を使いましたが、今年はガリシア州のお隣、アストゥリアス州のバンドEl Sueno de Morfeoが、イントロでいきなりガイタを使っています。動画はこちら(YouTubeのEurovisionアカウントより)→ http://www.youtube.com/watch?v=fIPXPFNbdzs

 バンドがアストゥリアス州出身ですし、楽器の形状や運指からも、使われているバグパイプは恐らくガイタ・アストゥリアナと思います(一行広告:ガイタ・アストゥリアナ、作ってみようと思っているので、欲しい人は注文してくださいね!)。

 さて、気になるコンテストの結果ですが、なんとブルガリアは予選落ち。スペインは大国なので、予選を免除されていきなり本選から参加できるのですが、本選参加26カ国中25位。スペインのほうは、本番でボーカルのおねえさんが随分緊張してしまったようで、音も外れていたし声もあまり出ていなかったので、まあ仕方がないのかもしれませんが。バグパイプファンとしては何とも残念な結果でした。なお、今年の優勝はデンマークです。(ちなみに最下位の26位はアイルランド・・・)。

 ただ、ユーロビジョンの審査方法については、その公正さに疑問を呈する声もあり、また英仏独伊西の五大国が予選を免除される点にも批判があります。今年は、これまで毎年参加して好成績を収めていたトルコが、こうしたシステムに異議を唱えてボイコットするという事件もありました。まあ、過去の例を見ても、歌唱力や曲の完成度が順位に反映されているわけではないので、私は結果はあまり気にせず、色々な国のミュージシャンのパフォーマンスを楽しむようにしています。

<今日の一本>

 これは納品前テストの一環として録った動画なのですが、ドゥダイでスコティッシュ・スローエアを吹いてみました(注:すごく地味な演奏です・・・)。なかなか繊細な楽器で、空気圧を調整して音程を保つのが難しいのですが、チャンターとドローンの音がピタリと重なった時はセックピーパのようで、とても気持ちいいです。ちなみに、運指がスコティッシュとは違うので、それ相応にアレンジしてあります。

http://www.youtube.com/all_comments?v=fSxQJQnEIVc

<現在開発中のバグパイプ>

  • A-minor仕様のガイタチャンター....(Sさん、お待たせしてごめんなさい。今やってます・・・・)
  • ボーダーパイプス...(Hさん、お待たせしてごめんなさい。これも今やってます・・・・。)
  • C管ガイタガレガに装着して使用可能なプラクティスチャンター
  • 高音域Bb管ボックチャンター

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2013/01/20/22799

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2013年1月20日 (日)

ブローパイプバルブの素材・プラスティックドローンリードの舌の交換

 皆様、大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 前回ブログを更新したのが昨年の10月初旬ですから、三ヶ月以上ブログをほったらかしにしておりました。実はこの間、試作的要素の多いご注文への対応や、2008年から毎年行っているバグパイプ製作コースの準備等で多忙を極め、時間的にも精神的にもブログに向き合う余裕が全くなく、随分とご無沙汰してしまいました。大変失礼致しました。

 ブログをサボっていた言い訳はこれくらいに致しまして、まずは前回記事のブローパイプバルブに関する記事のフォローアップから。前回の記事で、ゴム製バルブの作り方として、バルブが反ってしまうのを防ぐためにゴムを二重にすることをご紹介しました。その際、シリコンを使えばいいかも、と言及しましたが、その後、オーブンでクッキーなどを焼く時に敷くシリコンマットを入手。これをバルブに使ってみたところ、なかなか使い心地がよいことがわかりました。厚さは1mm程度のもので、こちらでは4ユーロで買いましたが、日本でも1000円くらいで手に入るそうです。バルブの作り方はゴムの時と同じで、二重にしなくてもよいですから、より簡単です。一つ買えば、一生バルブに困らないくらいの大きさがあります。

 では、本日の本題にはいりましょう。プラスティック・ドローンリードが壊れてしまった場合の交換方法について、ご紹介します。時折、ドローンリードの舌をうっかり曲げてしまった、というご相談を頂きますが、そうした場合には以下の方法で補修できます。もっとも、これは私が最近作っているプラスティックドローンリードに対応して説明させて頂いておりますので、他のメーカーさんの楽器をお持ちの方は、多少のアレンジ・工夫をして頂く必要があるかもしれません。あるいは、リードの形状によっては以下の方法では対応できない場合もあります。リードの構造や設計は各メーカーさんによって異なりますので、その点は何卒ご了承下さい。

 さて、一般的なプラスティック・ドローンリードは、プラスティックあるいはその他の素材で出来た鞘の部分に、薄いプラスティックの切片で出来た「舌」を取り付けた構造になっています。舌の部分が折れ曲がったりして壊れても、この鞘の部分は使えますので、鞘は捨てないで下さい(私の製品の場合、この鞘がドローンリードの値段の大部分を占めています!)。

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(写真1:当工房のプラスティックリードの鞘。鞘の部分は、プラスティックのほか、アフリカンブラックウッドや黄楊等の硬木の端材で作っています。)

 「舌」の部分の素材として一般的なのが、ポリスティロール(PS)です。チャンターリードもドローンリードも、舌の部分はこの素材で作られることが多いです。このポリスティロールは、模型専門店などで色々な厚さのものを売っています。一方、既にご存知の方も多いかと思いますが、ポリスティロールは食品容器の素材として広く利用されているので、ヨーグルトやアイスクリームなどの容器を切ったものでも十分使用できます。私はスーパーでアイスクリームなどを買う場合、多少味が劣っても、ついついポリスティロール容器に入っているものを選んでしまいます。

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(写真2:ポリスティロールの食品容器)

 こうした容器の、平らでまっすぐな面を短冊状に切り出します。多くの場合、一つの容器から、色々な厚みの短冊をとることができます。私はバグパイプの種類やドローンの音程に応じて、0.3mmから0.5mm程度の厚さのものを使い分けています。もとのプラスティック舌の幅と厚さを測っておき、同じサイズのものを切って使うとよいでしょう。

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(写真3:切り出したポリスティロールの切片)

 切り出した短冊状のプラスティックを、適切な長さに切り、これを鞘の部分にテープで仮どめします。これは次の段階で舌を固定する際、ずれないようにするためです。

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(写真4:ポリスティロールの切片をテープで仮止め)

 次に、プラスティックの舌を固定します。昔のモデルではテフロンテープで巻いて固定していましたが、最近はゴムチューブを使って固定するようにしています。ゴムチューブは東急ハンズで安く手に入ります。

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(写真5:ゴムチューブを適切な長さに切断)

 短く切ったゴムチューブをかぶせて、舌を鞘に固定します。これは、ゴムチューブでなくても、テフロンテープやビニールテープで固定しても構いません。このとき、舌がゴムチューブからはみ出している部分の長さ、即ち舌が振動する部分の長さは、音程を決める上で重要です。ですから、壊れたリードの舌を交換する前に、振動部分の長さを測って書き留めておくことをお勧めします。

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(写真6:ゴムチューブをかぶせてプラスティックの舌を固定)

 取り付けた舌が空気の流れによって振動するためには、舌と鞘の間に僅かな隙間があることが必要です。舌と鞘の間に根元までカッターの刃を差込み、刃をクイッと上に傾けて舌に折り目をつけると、舌と鞘の間に隙間ができます。このとき、親指で舌の根元をしっかり押さえて、根元の部分にきちんと折り目ができるようにします。カッターの刃で指を切らないように注意しましょう。

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(写真7:舌の部分を折り曲げる)

 この折り曲げが大きすぎると、隙間が大きくなりすぎて、舌を振動させるのに大変な量の空気が必要になったり、あるいは舌が開きっぱなしになって空気だけが抜け、音が出ないといったことになります。一方、折り曲げが小さすぎると、すぐにリードが閉じて音が止まってしまいます。ただ、適切な開き具合は、楽器や演奏者のクセによって異なってきますから、この部分は個人個人で試行錯誤が必要です。

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(写真8:適切な開き具合に折り曲げた舌)

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(写真9:先端方向から見た場合)

 この段階でドローンに差し込んでみて、きちんとした高さの音がでるなら、これで完成です。しかし、音は出るけど低すぎる、又は高すぎる場合、これを調整しなければなりません。もし音が低すぎる場合、舌の先端を少し切り詰めて短くしてやります。

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(写真10:舌の先端をカット。鞘を傷つけないよう、舌と鞘の間にボール紙をはさむ。無理やり切ろうとすると、刃が滑って指を切るので注意しましょう。)

 音が高すぎる場合、舌をもう少し長いものに交換するか、やや開き具合を大きくします。もう一つの方法は、舌の上にワックスや文房具店で売っている「ひっつき虫」をひとつまみ、オモリとして乗せてやります。基本的には、舌の先端の方に乗せればのせるほど、そして乗せる量が多いほど、音は低くなります。ただ、あまり沢山乗せすぎると、上手く振動しません。

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(写真11:舌の上にのせたオモリ)

 ドローンリードは、舌が壊れても、鞘さえ無事なら、身の回りのもので十分対応できる場合が多いので、そのような場合は一度上記をお試し下さい。もちろん、最初はうまく行かないかもしれませんが、決して難しい技術を要するものではないので、何度かやっているうちにコツが分かってくると思います。

<今日の一枚>

 最初に述べました通り、特に昨年あたりから試作的要素の強いご注文を多く頂いております。特に既存製品の規格に無いチャンターを設計する場合、何本も試作チャンターを作っては内径やテーパー比、音孔のポジションなどを色々と試してみるわけです。試作チャンターと言っても、実際に製品にした状態で鳴ることを確認する必要があるので、チャンター内部・外部もきちんオイル処理を施します。試作リードも、再現性を確保しておく必要から、必ず数本作ります。

 さて、以下の写真は、そんな試作過程のワンシーンです。

Cimg4806

 これはドイツのお客様からご要望があった特別なC管ドゥダイの試作チャンターの一本目です。リードとチャンター内径を確定した後、あたりをつけてチャンターに音孔をあけてみたら、全体的に音が高かったため、音孔を同じ木材の端材でうめて、再利用を企てているところです。杭のように差し込んだ端材を根元で切り落とし、チャンター表面にもう一度やすりをかけ、内部のボアをきれいにすれば、再利用ができます。手間がかかりますが、それでも新しい試作チャンターを一からつくるよりはずっと早いです。このあと、数本きれいな試作チャンターを作り、音孔ポジションを微調整しながら確定した後、最終製品を作って納品しました。

 なお、音が高すぎる場合、理論的にはリードのポジションをもう少し上にするとか、リードをもう少し低めに調整する、などの方法で解決を図ることも可能ですが、この時はリード自体はよく出来ていたことと、シングルリードの場合は(ドゥダイはシングルリード・チャンター)チャンターの長さとリードの相性が大切なので、音孔の位置を変えることで対応しました。

 <現在取り組んでいる試作バグパイプ>

  • ドゥダィD管キー付きチャンター(カーボンリードの設計並びにチャンターの音孔ポジションを確定。1年以上お待たせしておりますが、ようやく試作段階が終わりつつあるので、近日中に製品化できそうです。)
  • A-minor仕様のガイタチャンター(内部のテーパー構造を確定)
  • ボーダーパイプス(チャンター内部のテーパー構造を確定)

 昨年後半、ヒュンメルヒェンで色々なバージョンを作ったほか、ボック系バグパイプでも新しい試みをしたので、次回以降の記事でおいおいご紹介したいと思います。

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2013/01/20/20169

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2012年10月 7日 (日)

ゴム製ブローパイプバルブの作り方

 先日私のお得意様から、「自分でゴム製のブローパイプバルブを作ってみたい」とのご相談を受けました。本ブログでは、以前皮製バルブの作り方をご紹介しましたが(http://bagpipesonoda.air-nifty.com/blog/2011/05/post-10c5.html)、その後ゴム製バルブを導入してみたところ、何人かのお客様からご好評を頂きましたので、最近はゴムで作ることも多くなりました。

 さて、作り方です。まず、二種類のゴム板を用意します(下写真左)。黒いほうは「CRゴム板」、茶色いほうは「飴ゴム」という商品名で、東急ハンズで安価に手に入ります。厚さはそれぞれ1mmです。

Cimg4693

 最初に、皮を丸くくりぬく「ハトメ抜き」という道具を使って、飴ゴムのほうに型をつけます。ここでは印をつけるためだけで、くりぬきません。皮製バルブの際に書きましたが、この道具は皮革工芸に使われるもので、インターネットでも手に入ります。くりぬく円の直径は、ブローパイプストックの内径から2~3mm程度小さい直径のものがよいでしょう。私はブローパイプストックの内径を大抵18mmで作っていますので、この用途には直径15mm又は16mmのものを使っています。

Cimg4696

 丸く印をつけたところに、小さな尻尾部分をつけてやります。

Cimg4698  

 これをハサミで丁寧に切り取ります。ここで、ゴムを引っ張りながら切ると、きれいに切れませんので、注意してください。また、ハサミを何回も細かくチョキチョキと動かして切ると、切断面が段々になってしまいがちなので、ハサミを大きくあけ、一回の「チョキ」でできるだけ長く切るようにします。ここは慎重に行います。

Cimg4699

 次に、黒いゴムをくりぬきます。ここでは、ハトメ抜きで、そのままくりぬきます。

Cimg4697

切り出した飴ゴムと黒ゴムのパーツです。

Cimg4700

 黒ゴムのほうは、カッターで端を少し切ってやります。

Cimg4701

 飴ゴムと黒ゴムを張り合わせます。私は二剤混合の耐水性エポキシ接着剤を使っています。このエポキシ接着剤のパッケージには「ゴムの接着には向かない」と書いてあるのですが、おかしなことに「ゴムも接着できる」と書いてある他の接着剤よりもよく接着できるため、これを使っています。ただ、私自身このエポキシ接着剤に100%満足しているわけではなく、もっといい接着剤があればそれを使いたいのですが、今のところ見つかっていません。もしゴム専用のいい接着剤をご存知の方がおられましたら、ご教示頂ければ幸いです。

Cimg4704

 接着済みのパーツです。

Cimg4705

次に、金属の薄い板を用意します。私は厚さ0.3mmの真鍮板を、幅4ミリほどにカットして使っています。真鍮板も東急ハンズなどで手に入りますし、金属用のハサミがあれば切ることができます。切断面は紙やすりをかけて滑らかにしておきます。切断面をそのままにしておくと、手を切ったりジョイントの巻き糸を切断してしまうので、ご注意下さい。

 Cimg4707

  この真鍮板の端5mmくらいを、ペンチを使って折り曲げます。

Cimg4708_2

 折り曲げた部分の間に飴ゴムパーツの尻尾部分を差込み、ペンチを使ってきっちりはさんで固定します。

Cimg4709

 これで出来上がりです。下の写真の左が裏側、右が表から見たものです。

Cimg4710

 さて、これをブローパイプに取り付けるのですが、取り付け方は皮製バルブと基本的に同じで、金属の部分を糸で巻きつけます。しかし、ゴム製バルブの場合には少しコツが必要です。というのは、取り付ける位置の微妙な違いによって、動作が全然違ってくるからです。この点については、何ヶ月か前に、当工房のお客様にご覧頂けるよう、ビデオをYouTubeにアップしてありますので、こちらをご覧下さい。http://www.youtube.com/watch?v=sD-KsbAzaLE

 ところで、口吹き式バグパイプのブローパイプには、上述のように飴ゴムと黒ゴムを貼り合わせたものを使っていますが、最初は次の写真のように飴ゴムだけの一層構造のバルブを使っていました。

Cimg4712

 飴ゴムだけでもきちっと空気の逆流を止められますし、むしろ取り付けは飴ゴム一層タイプのほうが簡単なのですが、長時間演奏し続けたり、演奏後ブローパイプをストックに差し込んだままにして長時間湿気にさらすと、バルブが反ってしまうということが分かりました。このため、湿気による反りを減殺するために二層にしました。ちなみに、一層タイプの「反り」が判明したのは、昨年のバグパイプ製作コースでのこと。製作コースではヒュンメルヒェンとボックを作って頂くのですが、ヒュンメルヒェンのほうが作業量が少なく、ボック組より早く完成するため、ヒュンメルヒェン組はさっさと製作を終わらせ、山羊の毛だらけになっているボック組を横目に、完成した楽器で遊んでいるわけです。で、ヒュンメルヒェン組の中に、極めて練習熱心な少年がいまして、彼は作ったばかりのヒュンメルヘンを片時も手放さず、何時間もぶっ続けで練習に励んでおりました。そこでこの「反り」が発生し、問題点が明らかになったという次第です。この少年、全くのバグパイプ初心者だったのですが、コースが終わる頃には何曲かのレパートリーを演奏できるようになって帰って行きました。やはり練習は大切ですね。

 この飴ゴム一層タイプは、湿気にさらされなければ問題ありませんし、取り付けも容易ですから、ふいご式のブローパイプ(ふいごとバッグの接続管)には、今もこれを使っています。

 反りの問題さえなければ、一層で十分対応できるので、反らない素材があれば使ってみたいと思っています。厚さ1mmほどのシリコン板が手に入れば、使ってみたいのですが、なかなか見つからず現在に至っています。この点についても、もしいい素材があるようでしたら、ご連絡頂ければ幸いです。

<今日の一本>

 今回はお客様の演奏をご紹介いたします。神戸在住の「てりー@LDMT」さんが、ご自身が関わっておられる音楽プロジェクトに、当工房のヒュンメルヒェンを使って下さっています。「東方永夜抄-風神録 Floating Cloud - 夏果の郷」という曲で、YouTubeで聴くことができます。http://www.youtube.com/watch?v=qp-0RONUm-Y

 このプロジェクトの公式サイトはこちらですので、合わせてご覧下さい。「てりー@LDMT」さんのほか、某有名パイパーの方も参加されています。→http://floatingcloud.net/disc/toho_irish/

 また、「Tranica」というサークルの自主制作盤での「とある祈り」という曲で、部分的ですがヒュンメルヒェンを二胡とのユニゾンで使用してくださったとのこと。サイトのリンク(こちら→http://tranica.net/)から演奏をお聴き頂けます。

 「てりー@LDMT」さんはもともとアコーディオンを演奏されていたとのことで、バグパイプは初めてだったそうですが、バグパイプの演奏技術を習得し、なお且つご自身のオリジナルに用いるという離れ業を、極めて短期間で実現された方です。特に「東方~」の演奏は、楽器入手後わずか数ヶ月だったとのこと。

 お客様が当工房のバグパイプを使ってご活躍され、バグパイプの新境地を切り開いておられることを知るのは、製作者として何より嬉しいことです。

  <現在取り組んでいるバグパイプ>

 前回完成間近だったブラックウッド製ふいご式A管スコティッシュ・スモールパイプスが完成し、お客様にお送りしました。これです。(変なバグパイプばっかり作っているようですが、普通のパイプスも作ってます。)

 Cimg4574  

 既存製品以外で、開発を請け負っているプロジェクトは以下の通りです。(毎度ながら、納期遅れてすみません・・・。)

  • ヒュンメルヒェンC管及びアルトF管・キー付きチャンター(ほぼ完成)
  • オープン運指のスコットランド音階プラクティスチャンター(完成)
  • ドゥダィD管キー付きチャンター(キーのポジション確定作業中)
  • オープン運指のC管ドゥダイ
  • A-minor仕様のガイタチャンター
  • ダブルチャンターヒュンメルヒェンD管
  • (ついに!)ボーダーパイプス

 成果は今後の記事でご紹介していきたいと思います。

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バグパイプ工房 そのだ

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2012年9月 9日 (日)

「ドイツ」のバグパイプ・シェーファープファイフェ。しかしその実態は?

 先日、久しぶりにバンド(ハイランド)の練習に行った際、シェーファープファイフェを持っているパイパー・ハンス君(ドイツ人)と彼の楽器について話をしていたところ、別のパイパー(スコットランド人)が「シェーファープファイフェって何だ?」と尋ねてきました。そこで、ハンスが答えて曰く、「フランスのバグパイプだよ。」

 前回の記事で、当工房の新製品として、シェーファープファイフェのご案内をいたしました。その際、ヒュンメルヒェンと並んで最も人気のあるドイツのバグパイプ、としてご紹介しました。では、なぜハンスはこれを「フランスのバグパイプ」と言ったのでしょうか。

 実は、現在作られているシェーファープファイフェの多くは、フランスのバグパイプであるコルヌミューズ(Cornemuse de centre)の形を変えた楽器、と言ってもよいのです。下の写真は、私が6~7年前に、某バグパイプ職人さんの指導の下で作ったコルヌミューズです。

Cimg4573

 ご覧のように、テナードローンがチャンターの横に並列して取り付けられているのが特徴で、一見するとシェーファープファイフェ(下写真)とは違う楽器のように見えます。

Cimg3940

 しかし、現在作られているシェーファープファイフェの多くは、コルヌミューズとはストックの形状やドローンの取り付け位置が異なっているだけで、チャンターの構造や運指、ドローンの構成は全く同じなのです。従って、楽器を見ないで音だけ聴くと、区別が付かないでしょう。 さらに、ドイツ型のシェーファープファイフェ奏者の多くが、フランスの曲を好んで演奏します。特に、ハーディガーディ等との合奏で、ブーレなどフレンチ・フォークダンスの伴奏をするのは、シェーファープファイフェの楽しみ方として大きな比重を占めます。ちなみに、私がサウンドサンプルビデオで演奏している曲もフランスのトラッドです(曲名:Valse a cadet こちら→http://www.youtube.com/watch?v=3b6R7mzyMQA)。楽器の調も、フレンチトラッドを演奏しやすいG管が主流となっています(この他、D管やC管もみかけます)。

 このためドイツでは、フランスのコルヌミューズを、しばしば「フランスのシェーファープファイフェ」、又は単に「シェーファープファイフェ」と呼びます。実際、前述のハンスが持っているのもコルヌミューズであり、彼は日常的にそれを「シェーファープファイフェ」と呼んでいるのです。

 このように、現在のシェーファープファイフェの実態は、フランスのコルヌミューズの一形態、と言っても過言ではありません。一方、過去においてもシェーファープファイフェが実質的にコルヌミューズと同じ楽器だったのかといえば、そうではなさそうです。

 恐らく、(ドイツ型)シェーファープファイフェを作っているメーカーさんのほとんどが、プレトリウスの「音楽大全」のスケッチのデザインを意識して製作しているものと思われます(下図、楕円で囲んであるのがシェーファープファイフェ)。しかし、構造面では現代のシェーファープファイフェと一つの大きな違いが見られます。即ち、「音楽大全」に記されているシェーファープファイフェのチャンターはその音域(e~f')からF管と思われますが、二本のドローンはバスがBb、バリトンがF、となっています。現代のバグパイプでは、バスドローンにはチャンターキー音のオクターブ音が設定されるケースが圧倒的に多く、現代型の一般的なシェーファープファイフェやコルヌミューズもそうなっているので(例えば、チャンターがG管ならドローンもG)、F管チャンターに対してバスドローンが四度のBbという構造は、非常に興味深いです。

Praetorius_schaeferpfeife

(図の出典:Bärenreiter社刊 M. Praetorius "Syntagma Musicum II", 1619)

 話はそれますが、プレトリウスのヒュンメルヒェンも、C管と思われる音域構成(b~c'')のチャンターに対し、バスドローンが四度のF、バリトンがC、となっており、当時のシェーファープファイフェと同じ考え方でドローン音が配置されています。これは、当時のバグパイプの構造を知る上で、大変示唆に富んでいます。というのは、見方を変えて、あくまでもバスドローンの音がチャンターのキー音に一致していると考えれば、当時のシェーファープファイフェやヒュンメルヒェンのチャンターでは、現在一部の東欧系バグパイプに見られるように、キー音が右手人差し指の音孔に割り当てられていた可能性も排除できないからです。その場合、実はシェーファープファイフェのチャンターはBb管、ヒュンメルヒェンはF管、ということになり、それぞれのバスドローンの音がチャンターのキー音に一致することになります。ただ、これはあくまでも可能性の一つして推測出来るだけであり、確たる裏づけはないので、参考にとどめておきたいと思います。

 このように、現在のシェーファープファイフェは、昔の楽器が年月を経て発展してきたものではなく、一旦廃れてしまったものがコルヌミューズの構造を借りて生まれ変わり、現代のバグパイプファンの間で普及したものと考えられます。このため、厳密には現在のシェーファープファイフェはドイツの「伝統バグパイプ」ではないかもしれませんが、現在ではドイツ・オーストリアのバグパイプとして完全に市民権を得ており、既に多くの人が演奏を楽しんでいます。フランスの曲だけでなく、ドイツやオーストリアのトラッドはもちろん、音域がはまる限りジャンルを問わず色々な曲が演奏されているので、ヒュンメルヒェンのように汎用性の高いバグパイプであり、今後も多くのバグパイプ愛好家に親しまれていくことでしょう。

<今日の一枚>

 今回はこれ。チェコ・ストラコニツェの伝説上の人物「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」の像です。先日、ストラコニツェで行われたバグパイプフェスティバルに行った際、町の中心で見かけたものです。

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 2010年の同フェスティバルに行った際にはまだ無かったので、どうやらここ2年の間に建立されたようです。この「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」伝説は歌劇(ヤロミール・ヴァインベルガー作曲)にもなっており、色んなオケの演奏で上演されているそうです。ここでの「バグパイプ」とは、ドゥディ(ドイツ語ではボック)のこと。私のドゥディの師匠が一度歌劇に出演した際、ドゥディを放り投げるシーンで楽器を壊してしまった、というエピソードを持っています。ただ、この歌劇の上演では必ずしもドゥディを使うわけではなく、他の楽器で代用することが多いとのこと。上手なドゥディ奏者はチェコ(一部オーストリアや南部ドイツ)に集中しているので、その他の地域で奏者を見つけるのは難しいんでしょうね。

 もしチェコが19世紀イギリスのように世界の覇者となっていたら、ハイランドパイプスではなくドゥディが世界を席捲していたかもしれません。そうなると、歌劇上演の際にはドゥディ奏者を容易に見つけることが出来るでしょう。しかし、そのような世界では、パキスタンの山羊がバッグに使われて激減してしまうほか、

  • 毎年プラハ城でドゥディのミリタリー・タトゥーが開催される
  • ボヘミア各地では世界から集まったドゥディ・バンドがコンペティションで競い合う
  • チェコ系の米国海兵隊員が砂漠でドゥディを演奏するシーンがCNNで放映される

といった状況が出現するかもしれません。(しかしその音色ゆえにノホホン感がぬぐえないことが予想される。)

<現在取り組んでいるバグパイプ>

 今回から、今の仕事の現状についてご紹介していきます。最近はこんなことをやっています。

  • ブラックウッド製ふいご式A管スコティッシュ・スモールパイプス(リード調整を残すのみ!)
  • ヒュンメルヒェンC管及びアルトF管・キー付きチャンター(キーのフィッティングと調整)
  • ドゥダィD管キー付きチャンター(キーのポジション確定作業)
  • オープン運指のスコットランド音階プラクティスチャンター(音孔ポジション実験中)
  • オープン運指のC管ドゥダイ
  • A-minor仕様のガイタチャンター
  • ダブルチャンターヒュンメルヒェンD管…等

 成果については、折にふれて写真等を交えてご紹介していきたいと思います。

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2012年8月12日 (日)

(日本人のための?)シェーファープファイフェ 新発売

 既にホームページには掲載しているので、ご覧頂いた方もおられるかもしれませんが、最近「シェーファープファイフェ (Schäferpfeife)」というバグパイプを新発売しましたので、お知らせします(以下、写真と音源サンプル)。

Cimg3940

音源サンプル:http://www.youtube.com/watch?v=3b6R7mzyMQA

 シェーファープファイフェは、ヒュンメルヒェンと並び、最も普及しているドイツのバグパイプです。シェーファープファイフェとは、直訳すれば「羊飼いのパイプ」という意味です。人気のあるバグパイプなので、ドイツのバグパイプ職人さんのほとんどの方が作っておられ、競争が厳しい分野であること、また、チャンターのテーパー比にあわせた工具も必要にな等の理由で、当工房ではこれまで製作していませんでした。今回、この楽器を作るきっかけを下さったのが、ある日本のお客様でした。そのお客様いわく、「自分は手が小さく、長いチャンターのシェーファープファイフェの演奏は大変そうなので、小さな手でも楽に演奏できるチャンター設計でシェーファープファイフェを作れないか」ということでした。

 実は私もシェーファープファイフェを持っておりますが(これは他の職人さんのものです)、私も手が小さく指が短いため、同じ悩みをかかえておりました。特に、今日一般的なシェーファープファイフェでは、半音を出すためにチャンターの裏側、位置的には人差し指と中指の間ほどに、右手親指の音孔があけてあるのですが、これを押さえながら右手小指を閉じたりあけたりするのにいささか不便を感じておりました。このため、このお客様の気持ちはよく理解できましたので、あまり経験のない分野ではありましたが、それを機会に開発に着手しました。昨年春のことです。

 とはいってもなかなか簡単には進まず、通常の仕事の合間に色々と失敗しながら試行錯誤を続け、お客様に1年以上もお待ち頂いてようやく今年6月に納品した次第です。ご注文下さったお客様に対しては、よい機会を与えてくださったこと、それに長い間文句も言わず忍耐強くお待ち頂いたことに、大変感謝しております。

 以下の写真が、当工房の試作品チャンター(左)と、一般的に普及している設計のチャンター(右)との比較です。

Cimg4450

 当工房の設計で変えた点は次の通りです。

  • 全体的にやや短めで、右手薬指と小指の間の隔たりを少なくしています。
  • 一般的なシェーファープファイフェでは、上記の写真右側のチャンターのように、右手小指の音孔はリコーダーのように外側にずれていることが多いのですが、当工房ではハイランドパイプスのチャンターのように、上の音孔と一直線上に配置することにしました。これは、チャンター裏側の右手親指の音孔を押さえやすくするため、特に右手の人差し指・中指・薬指の音孔はハイランドパイプスのように指の中ほどで押さえると良い、という私の知人(シェーファープファイフェの指導をしている)のアドバイスを思い出し、それに対応したものです。そうやって演奏しようとすれば、小指の音孔が外側にあるよりも一直線に並んでいるほうが押さえやすいからです。

 また、写真では分かりませんが、従来とは異なる音孔配置を可能にするため、内部構造も少し変えてあります。

 シェーファープファイフェは大変人気のある楽器であるだけに、色々な職人さんによって研究され尽くされ、現在は設計も一つの形にほぼ収束・固定化しつつある、という話を聞いたことがあります。リードの互換性などを考えれば標準化のメリットは大きいですが、お客様一人一人に合った楽器を作る、という点からは、あえてスタンダードと違う設計を試してみることにも意義があるのではないか、と思います。

 上述のごとく、今回の当工房の設計では、手の小さな方の利便性を考慮しているので、欧米人に比べると体格の小さな日本人、あるいは女性の方にとって、シェーファープファイフェがより親しみやすい楽器となるきっかけになればと思います。

 次回は、シェーファープファイフェという楽器のプロフィールについて、ご紹介したいと思います。現代型のシェーファープファイフェとプレトリウスのシェーファープファイフェとの相違点、演奏の楽しみ方などについて書く予定です。

<今日の一枚>

 今回から、記事内容とは関係なく、バグパイプに関係した写真(ビデオ)などを一つずつご紹介していきたいと思います。今回はこれ。なんの写真か分かりますか?

Cimg4430

 これは、ボックでチャンター・ドローンとその先の角を連結している部分の金具(下写真参照)の製作途中の状態です。Bockgelenk

 このように真鍮管を斜め切りにし、バーナーでL字型にくっつけ、表面を磨きます。一見なんてことない部品なのですが、作るのはかなり手間のかかる作業です(まだ職人になる前に、この部分を金属屋さんに作ってもらったことがありましたが、一万円位したので、外注は断念して自作することにしました)。

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2012/08/12/15834

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2012年7月25日 (水)

ブログ再開・「バグパイプ豆知識」ページのご案内

 大変ながらくご無沙汰しておりました。ここ2ヶ月ほど公私ともに極めて多忙であり、また体調を崩していた時期もあったため、ブログやホームページの更新まで手が回りませんでした。少しずつ本来の仕事のスケジュールに戻ることが出来るようになりましたので、ブログ記事の掲載を再開したいと思います。というわけで、今回は簡単なお知らせから。

 おかげさまで、ブログを始めてから2年近くになりました。その間、いくつかの記事を書いてきましたが、その中で、今後もご参照して頂けるような内容の記事をピックアップし、新しくホームページ上に設けた「バグパイプ豆知識」というページにリスト化しました。珍しいバグパイプに関する情報やリードの作り方、チューニング方法などの記事が、すぐに見つかるように致しましたので、御必要に応じてご参照頂ければ幸いです。(こちら→http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/J-Information.html

 また、ここしばらく、日本語ホームページのリンクが機能しない状態が続いておりました。これにつきましても、今回の更新を機会に修復を図りましたので、またご覧頂ければ幸いです。ご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。

 次回以降は、最近の新製品のご紹介と、その楽器のプロフィールや歴史的バックグラウンドについて書いていきます。

 これからもどうぞ宜しくお願い致します。

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本ブログの更新を知るには、Twitterが便利です(フォローして下さっている皆様、有難うございます!)。こちらをご覧下さい。 http://twitter.com/BagpipeMakerTS

本ブログでは、現在コメント欄は設けておりません。お手数をおかけして恐縮ですが、本内容に関するお問い合わせはbagpipesonoda@mbr.nifty.comまでお願いいたします。)

2012/07/25/15233

バグパイプ工房 そのだ

欧文ホームページ:http://www.bagpipesonoda.eu/

日本語ホームページ:http://homepage3.nifty.com/bagpipesonoda/

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  • 2.2 セックピーパ(スウェーディッシュ・バグパイプ):ドローン
    当工房で製作しているバグパイプの一部をご紹介いたします。
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